役員社宅の家賃負担はいくらが正解か|賃貸料相当額の計算式と実例

COMPANY HOUSING
「役員社宅にすると節税になると聞いたが、自分はいくら会社に払えばいいのか」。創業まもない社長からのご相談で、役員報酬の次に多いのがこの質問です。そして、ここには広く誤解が2つあります。「家賃の50%を払わないといけない」という誤解と、「とりあえず2〜3割払っておけば安心」という思い込みです。
結論から言うと、マンションの多くが該当する「小規模住宅」なら、役員の自己負担は実際の家賃の1割以下で足りるケースが少なくありません。当事務所が実際に計算した例では、家賃20万円クラスの都内マンションで、税務上必要な負担額(賃貸料相当額)は月7,000円台——家賃のわずか4%弱でした。
本記事では、元国税調査官の税理士が、賃貸料相当額の計算式と実例を解説します。あわせて、家賃を入れるだけで目安がわかる役員社宅の賃貸料相当額シミュレーター(無料)を公開しましたので、お手元の物件でそのまま試せます。
Conclusion
結論:「家賃の50%」でも「2〜3割」でもなく、算式で決まる
役員社宅の税務は、役員から「賃貸料相当額」以上を徴収しているかどうかがすべてです。徴収額が賃貸料相当額以上なら給与課税はなく、下回れば差額が経済的利益として役員給与になります。
よくある「家賃の50%」は、小規模住宅に該当しない借上げ社宅の場合の比較基準(または従業員社宅の基準)であって、小規模住宅には適用がありません。また「2〜3割」は評価証明書を取らずに済ませるための保守的な実務慣行にすぎず、正式に計算すればもっと低い金額で完結することがほとんどです。
| 区分 | 賃貸料相当額 |
|---|---|
| 小規模住宅(法定耐用年数30年以下の建物は床面積132㎡以下・30年超は99㎡以下) | 専用の算式(下記)。借上げでも50%基準の適用なし(所基通36-41) |
| 小規模でない住宅・自社所有 | 家屋の課税標準×12%(耐用年数30年超は10%)+土地の課税標準×6%の年額÷12(所基通36-40) |
| 小規模でない住宅・借上げ | 上記の算式と「会社が支払う家賃×50%」のいずれか多い方 |
| 豪華社宅(床面積240㎡超等) | 時価(実勢賃料)。算式は使えない(平成7年個別通達) |
RC・SRC造のマンションは耐用年数30年超なので99㎡が基準です(区分所有は共用部分を按分加算した床面積で判定。タックスアンサーNo.2600)。小規模住宅の算式は次のとおりです(月額)。
賃貸料相当額 = 家屋の固定資産税課税標準額 × 0.2% + 12円 × 床面積㎡ ÷ 3.3㎡ + 敷地の固定資産税課税標準額 × 0.22%
ポイントは、この算式のベースが実際の家賃ではなく固定資産税の課税標準額だという点です。課税標準額は市場家賃よりはるかに低く、特にマンションは敷地権割合で土地を按分するため、結果は驚くほど小さくなります。
Free Tool
家賃を入れるだけ、10秒で目安がわかる(無料ツール)
まだ評価証明書が手元にない段階でも、役員社宅の賃貸料相当額シミュレーターの「かんたん目安」モードに月額家賃(管理費・共益費を除く)を入れるだけで、実務上保守的な本人負担の目安レンジ(家賃の10〜20%)が表示されます。

かんたん目安モード。家賃20万円なら本人負担の目安は2万〜4万円
評価証明書が揃ったら「正式計算」モードへ。構造・床面積・課税標準額・敷地権割合を入れると、小規模住宅の判定から賃貸料相当額の確定、徴収予定額のチェックまで自動で行います。

正式計算モードの入力画面。評価証明書と登記事項証明書の数字を転記するだけ
Case Study
実例:家賃20万円の都内マンションで、月7,330円
当事務所で実際に計算した事例をもとにした設例です(数値は一部丸めています)。都内のSRC造マンション(借上げ社宅)、家賃は月20万円(管理費除く)。課税床面積は共用部分按分後で約70㎡なので、99㎡以下=小規模住宅に該当します。
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 家屋分 | 家屋の課税標準額230万円 × 0.2% | 4,600円 |
| 面積加算 | 12円 × 70㎡ ÷ 3.3㎡ | 255円 |
| 土地分 | 土地全体の課税標準額1億5,000万円 × 敷地権割合0.75% × 0.22% | 2,475円 |
| 賃貸料相当額(月額) | 合計 | 7,330円 |
家賃20万円に対して3.7%です。この会社では、固定資産税評価額の評価替え(3年ごと)や税制改正で賃貸料相当額が将来上がっても下回らないよう余裕を持たせ、切りのよい月1万円を徴収する設計にしました。毎年評価証明を取り直して精緻に追いかけるより、バッファを乗せて運用を安定させる方が実務的です。それでも家賃の5%。役員は月19万円分の住居費を、給与課税なしで会社負担にできたことになります。

シミュレーターの計算結果。内訳と小規模判定、徴収額のチェックまで表示
Documentation
評価証明書は「借主」でも取れる——根拠資料の集め方
正式計算に必要な資料は3つだけです。
| 資料 | わかること | 入手先 |
|---|---|---|
| 固定資産評価証明書 | 家屋・土地の固定資産税課税標準額、課税床面積 | 都税事務所(23区)・市町村役場。賃借人(借上げなら法人)でも取得可(地方税法382条の3)。賃貸借契約書を持参 |
| 登記事項証明書(建物) | 敷地権割合、構造(SRC等)、専有床面積 | 法務局・登記情報提供サービス(オンライン) |
| 賃貸借契約書 | 契約名義・家賃・管理費の内訳 | 手元(法人名義への切替が前提) |
「貸主に頼まないと評価額がわからない」と思われがちですが、賃借人には固定資産課税台帳の閲覧・証明の請求権があります。オーナーとの関係を気にせず正式計算に進めます。注意点は2つ。使うのは「固定資産税」欄の課税標準額で、都市計画税欄の額ではないこと(住宅用地特例の率が違うため都計欄は約2倍の数字になっています)。そして床面積は、マンションなら共用部分を按分加算した課税床面積(現況床面積)で小規模判定をすることです(タックスアンサーNo.2600)。
Design
役員報酬とセットで設計すると効果が最大になる
社宅の本当の効果は、単体ではなく役員報酬の減額とセットで出ます。いま自分の手取りから家賃を払っている状態から、「会社が家賃を負担し、その分だけ役員報酬を下げる」形に組み替えると、個人の所得税・住民税・社会保険料が下がり、会社側も社会保険料の会社負担が減ります。
先ほどの設例(家賃20万円・本人負担1万円)で、役員報酬月60万円の社長が会社負担分(19万円)だけ報酬を下げた場合を、切替前後で並べてみます。
会社側:出ていくお金の合計はほぼ同じ。差がつくのは社会保険料だけ
| 会社から出ていくお金(月) | 切替前 報酬60万円 |
切替後 報酬41万円+社宅 |
|---|---|---|
| 役員報酬 | 600,000円 | 410,000円 |
| 家賃の支払い | ― | 200,000円 |
| 役員から受け取る社宅使用料 | ― | ▲10,000円 |
| 小計(報酬+実質家賃負担) | 600,000円 | 600,000円(同額) |
| 会社負担の社会保険料 | 約86,100円 | 約68,500円 |
| 会社のトータルコスト | 約686,100円 | 約668,500円(▲約17,500円) |
「会社負担分だけ報酬を下げる」設計なので、報酬と実質家賃負担の小計は切替前後で1円も変わりません。変わるのは会社負担の社会保険料だけです。社会保険の等級を決める報酬が、切替後は「金銭報酬41万円+住宅の現物給与約6.1万円=約47万円相当」まで下がるため(現物給与は令和8年10月からの㎡方式。事業所所在地が神奈川なら70㎡×1,010円−本人負担1万円≒6万700円)、会社負担の社会保険料が月約1万7,500円軽くなる——これが「会社のトータルコストが下がる」の正体です。
役員個人も同じ構図です。給与が下がる分だけ所得税・住民税・本人負担の社会保険料が減り、住居費の自己負担は家賃20万円から使用料1万円に変わるので、実質手取り(手取り−住居費)は月約4万9,500円のプラス。会社と合わせて年間約80万円の改善になります。

節税効果の試算。個人・会社それぞれの改善額と、社保の現物給与算入まで表示
実行時の注意は2つです。役員報酬の改定は定期同額給与のルール上、原則として期首から3ヶ月以内に行うこと。そして標準報酬月額が下がる分、将来の厚生年金や傷病手当金等の給付水準も下がるため、節税額と保障のバランスで決めることです。
▶ 報酬側の設計は、役員報酬 手取り逆算シミュレーターと役員報酬の決め方【創業期の型】で詳しく解説しています。
▶ これから法人を設立する方は、法人成りシミュレーションで社宅を含めた法人化メリットの全体像を確認できます。
Pitfalls
税務調査で崩れる6つの落とし穴
算式そのものより、運用の崩れで否認されるのが社宅です。調査官時代の目線で、実際に指摘が入りやすい順に挙げます。
① 契約名義が個人のまま
賃貸借契約は法人名義が大前提です。役員個人の契約のまま会社が家賃を負担すると、それは社宅ではなく単なる家賃補助(給与)です。既存の個人契約は、貸主の承諾を得て法人契約に切り替えてから始めます。
② 社宅規程がない・徴収していない
社宅規程を整備し、本人負担額は毎月の役員報酬から天引きします。「期末にまとめて精算」は実態を疑われる典型です。
③ 水道光熱費・駐車場まで会社負担
賃貸料相当額がカバーするのは住宅の貸与だけです。水道光熱費は本人負担が原則(会社負担にすれば給与課税)。駐車場は住宅と別枠で経済的利益を判定します。管理費・共益費相当は家賃本体と区分して整理しておくと安全です。
④ 徴収不足の差額処理
徴収額が賃貸料相当額を下回ると、差額は毎月の経済的利益=役員給与です。継続的・定額であれば定期同額給与に含めて損金算入の余地はありますが、源泉徴収漏れの指摘は避けられません。最初から賃貸料相当額以上に設定するのが正解です。
⑤ 消費税の思い込み
住宅の貸付けは非課税です。会社が支払う家賃に仕入税額控除はなく、役員から徴収する社宅使用料も非課税売上(課税売上割合の分母に入る点は実務で見落としがちです)。
⑥ 豪華社宅への該当
床面積240㎡超のほか、240㎡以下でもプール付きなど個人の嗜好を反映した物件は時価評価です。役員社宅スキームの前提が丸ごと崩れるため、高級物件は事前に検討が必要です。
Social Insurance
税務がOKでも終わりではない——社会保険の「現物給与」
役員社宅でもっとも見落とされているのがここです。所得税は賃貸料相当額以上を徴収していれば課税なしで完結しますが、社会保険はまったく別の基準で動きます。社宅の貸与は健康保険・厚生年金の「報酬」に現物給与として算入され(健保法3条・46条、厚年法3条・25条)、その価額は賃貸料相当額ではなく厚生労働大臣が定める告示価額で測ります。社宅を導入している会社のほぼ全社が対象になる論点です。
| 項目 | 所得税 | 社会保険 |
|---|---|---|
| 基準額 | 賃貸料相当額(固定資産税の課税標準額ベース・所基通36-41) | 現物給与の告示価額(床面積㎡×都道府県別単価) |
| 使う床面積 | 共用部分を按分加算した課税床面積(設例:70㎡) | 共用部分を除いた面積=実質専有面積(設例:50㎡) |
| 本人負担の効果 | 相当額以上の徴収で給与課税なし | 価額から控除し、差額が報酬に算入 |
| 必要な手続き | なし(給与課税しないだけ) | 算定基礎届・月額変更届の「現物によるものの額」欄に記載 |
設例の物件で計算すると、専有面積50㎡×神奈川1,010円/㎡=50,500円。本人負担1万円を引いた月40,500円が「現物給与」として報酬に上乗せされ、算定基礎届・月額変更届の「現物によるものの額」欄に記載します(当シミュレーターは安全側に課税床面積ベースで約6万円と見積もります)。届出漏れは年金事務所の調査で把握されやすく、標準報酬の遡及訂正(最大2年)と保険料の追徴につながります。なお、食事の現物給与にある「価額の3分の2以上を徴収していれば計上不要」のルールは住宅にはありません。徴収額が告示価額に満たなければ、差額は必ず算入です。
この告示価額の算出方法が、令和8年10月1日に大きく変わりました。改正前と改正後で「数える範囲」と「単位」の両方が変わっています。
| 項目 | 改正前(令和8年9月30日まで) | 改正後(令和8年10月1日から) |
|---|---|---|
| 数える範囲 | 居住用の室だけ(居間・寝室・書斎など。玄関・台所・トイレ・浴室・廊下は数えない) | 住宅の床面積全体(別棟の物置・車庫、共用部分は除く) |
| 単位と単価 | 畳数 × 1畳あたり単価(東京2,830円・神奈川2,150円) | 床面積㎡ × 1㎡あたり単価(東京1,330円・神奈川1,010円) |
ひとことで言えば、「部屋だけを畳で数える」方式から「家全体を㎡で数える」方式への変更です。1㎡あたりに直した単価は下がった一方、水回りや廊下まで含めて数えるようになったため、間取りによって算入額は増減どちらもあり得ます。単価は毎年見直されるため、導入時だけでなく毎年の算定時に確認しておくと安心です。
それでも社宅のメリットが消えるわけではありません。告示価額は実勢家賃よりはるかに低い(設例なら実勢20万円に対して約5万円)ため、報酬19万円の引下げに対して現物給与で戻るのは4〜6万円だけ。差引き十数万円分の標準報酬の圧縮はしっかり残ります。「現物給与を正しく届け出ても、なお得」が役員社宅の正しい姿です。
なお、「算入を避けるために、告示価額まで徴収額を引き上げる」という選択は、一般には有利になりにくいと考えています。社会保険の報酬は金銭と現物の合計で決まるため、徴収を増やして現物給与を減らしても、役員の手取りを保とうとすれば金銭報酬側が増えて合計はほとんど動かず、増えた報酬にかかる所得税・住民税だけが重くなりがちだからです。基本は「徴収額は税務基準(賃貸料相当額+余裕)で決め、社会保険は現物給与を正しく届け出る」。そのうえで、標準報酬の等級の境目に近いケースでは徴収額を少し足すと等級が1つ下がることもあるため、最終的には個別の数字でご確認ください。
FAQ
よくある質問
ありません。基準は%ではなく「賃貸料相当額」という金額です。評価証明書が手元にない段階では家賃の10〜20%が保守的な目安になりますが、小規模住宅で正式計算すれば家賃の5%前後まで下がる例もあります。築浅で評価額が高い物件では10%を超えることもあるため、最終的には必ず算式で確定させてください。
できますが、契約を法人名義に切り替えることが前提です。貸主・管理会社に法人契約への変更(または再契約)を相談してください。切替前に会社が家賃を負担した分は給与扱いになります。
賃借人本人(借上げなら法人)が取得できます(地方税法382条の3)。23区なら都税事務所に賃貸借契約書と本人確認書類等を持参してください。貸主から固定資産税の課税明細書のコピーをもらう方法でも構いません。
法人契約なら会社の資産・経費です。敷金は差入保証金(資産)、礼金・更新料は20万円未満なら支払時の損金、20万円以上なら繰延資産として償却します。
従業員は基準が別で、賃貸料相当額の50%以上を徴収していれば課税されません(所基通36-47)。役員より緩い基準です。ただし社会保険の現物給与は役員・従業員共通で適用されます。









