マイクロ法人とは・社会保険料はいくら?【2026年版】|月2万円台になる仕組みと「二刀流」の正しい設計を元国税調査官が解説

「社会保険料の負担が重すぎる」「手取りをもっと増やしたい」——個人事業主・フリーランスの方が検討されるテーマのひとつが「マイクロ法人」です。うまく設計すれば社会保険料と税金の合計負担を下げられる一方、事業実態を伴わない形だけの法人は、税務では所得の分散を否認され、社会保険では被保険者資格そのものを認められないリスクがある、判断の難しいテーマでもあります。
最初に結論だけお伝えします。マイクロ法人の社会保険料は「所得」ではなく役員報酬の額で決まり、役員報酬を月45,000円に設定した場合(後述のとおり、月63,000円未満であれば保険料は同額です)、会社負担と本人負担を合わせて月21,950円・年間約26.3万円(40歳未満・協会けんぽ東京支部の令和8年度料率、令和8年4月分から加わった子ども・子育て支援金を含む)に固定されます。個人事業の所得がその後いくら増えても、この金額は所得に連動しません(変わるとすれば料率の改定によってです)。個人事業のまま国民健康保険・国民年金を払う場合と比べると、東京都特別区の令和8年度料率・40歳未満・単身という前提で、所得200万円なら年約18.5万円、所得500万円なら年約50万円の差になります(保険料だけの比較で、法人の維持コストを差し引く前の当事務所の試算です。詳しくは後述の試算表をご覧ください)。
作り方についても先にお伝えすると、手続きは7ステップ、設立実費は電子定款を使えば合同会社で約6〜10万円、登記完了までの目安は1〜2週間(管轄法務局によります)、そのあとの社会保険への加入と国民健康保険の脱退までがワンセットです。
本記事では、この金額がどう決まるのかを等級表から順に説明したうえで、メリット・デメリット、作り方7ステップ、そして令和8年3月18日に厚生労働省が出した新しい通知を含めて、2026年7月時点の制度にもとづいて解説します。
この記事でわかること
- マイクロ法人と「個人事業との二刀流」のしくみ
- 社会保険料が月いくら・年いくらになるのか(実額と計算根拠)
- 国民健康保険・国民年金と比べて何がどう変わるのか(扶養の扱いを含む)
- 税金面のメリット・デメリットと、合同会社と株式会社の選び方
- 作り方7ステップ(国民健康保険の脱退手続きまで)
- 令和8年3月18日の厚労省通知で示された、役員の被保険者資格の判断基準
- 東京都特別区の料率で試算した、個人事業のままの場合との年間差額
- 法人の維持コスト(均等割 年7万円+税理士報酬など)を差し引いたあと、保険料面で手元にいくら残るのか
- インボイスの2割特例が令和8年9月30日を含む課税期間で終わることと、その後の選択肢
Basics
マイクロ法人とは——「二刀流」で負担を最適化するしくみ
マイクロ法人とは、経営者1人(またはごく少人数)で運営する小規模な法人のことです。本記事で扱うのは、個人事業を残したまま、別の事業でマイクロ法人を設立する「二刀流」と呼ばれる形です。
ポイントは社会保険にあります。法人の役員になると、国民健康保険・国民年金に代わって健康保険・厚生年金(社会保険)に加入します。社会保険料は役員報酬の額を基準に決まるため、役員報酬を低く設定すれば、個人事業でどれだけ稼いでいても社会保険料は低い水準に抑えられます。国民健康保険料が所得に応じて上がっていくのと対照的です。
本業の稼ぎは個人事業で確保しつつ、社会保険はマイクロ法人側で最低水準の役員報酬にもとづいて加入する——これが二刀流の基本設計です。ただし後述のとおり、個人事業と法人の事業内容が同一では成立しません。
※個人事業と法人の事業内容が明確に区分できていることが前提です(同一の事業では成立しません)
なお、法人の事業所で常時従業員(報酬を受ける役員を含みます)を使用するものは、業種や人数にかかわらず社会保険の強制適用事業所です(健康保険法3条3項2号、厚生年金保険法6条1項2号)。社長ひとりの会社でも「入るかどうか」を選べません。この点は、マイクロ法人を「社会保険の入り口を作る手段」として使えることの裏返しでもあります。
Premiums
マイクロ法人の社会保険料はいくら?——等級表の「下限」で決まる
本記事の中心はここです。社会保険料は報酬の額そのものではなく、報酬月額を等級(標準報酬月額)に当てはめて計算します。そして、この等級表には下限があります。
役員報酬と個人事業の所得を入れると、①個人事業のまま(国民年金+国民健康保険)と②二刀流(マイクロ法人の社会保険)の年間負担を比較します。協会けんぽ東京支部・令和8年度の料率と、東京都特別区の国民健康保険料率で試算します。
| 年間の負担 | ①個人事業のまま | ②二刀流 |
|---|---|---|
| 計算中… | — | — |
| ②マイクロ法人の社会保険料の内訳 | |||
|---|---|---|---|
| 内訳 | 計算 | 月額 | 年額 |
| 計算中… | — | — | — |
※標準報酬月額は健康保険・厚生年金それぞれの等級表で別に決まります。子ども・子育て拠出金(厚生年金の標準報酬月額×0.36%・会社のみ負担)は含めていません。国民健康保険料は東京都特別区の統一保険料率・単身世帯・所得割の標準ケースで、軽減措置は反映していません。市区町村により料率が異なります。実際の報酬額は、法人側の業務の内容・量と釣り合っていることが前提です。
まず役員報酬を等級(標準報酬月額)に当てはめる
| 制度 | いちばん下の等級 | 対象となる報酬月額 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 健康保険 | 第1級:標準報酬月額 58,000円 | 63,000円未満 | 健康保険法40条1項 |
| 厚生年金保険 | 第1級:標準報酬月額 88,000円 | 93,000円未満 | 厚生年金保険法20条1項 |
※保険料は協会けんぽ東京支部・令和8年度・40歳未満(会社負担+本人負担の合計)。93,000円より右は縮尺どおりではありません。
つまり、役員報酬を月10,000円にしても月45,000円にしても、健康保険は58,000円・厚生年金は88,000円の等級として扱われ、保険料は同じになります。「限界まで下げれば下げるほど安くなる」わけではない、という点がまず重要です。
言い換えると、役員報酬が月63,000円未満であれば、健康保険・厚生年金とも最下等級のままで保険料は変わりません。45,000円でも60,000円でも社会保険料は同額で、報酬として支払った分だけ法人の損金は増えます。社会保険料を最小にしながら法人の損金を確保するという観点では、63,000円の直下がひとつの目安になります。ただし報酬額は、法人側の業務の内容・量と釣り合っていることが前提です(後述の令和8年3月18日通知を参照)。なお本記事の試算は、計算例として月45,000円を置いています。実際にいくらに設定するかは、法人側の業務実態と資金繰りをふまえて個別に決める必要があります。
なお、「マイクロ法人の社会保険料は最低いくらになるのか」という観点で言い直すと、役員報酬を支払う以上、月21,950円(40歳未満・会社負担+本人負担の合計)が下限です。健康保険は標準報酬月額58,000円、厚生年金は88,000円が最下等級で、それより下の等級が存在しないためです。役員報酬を0円にすれば保険料もかかりませんが、その場合は社会保険の被保険者として取り扱われず、国民健康保険・国民年金に残ることになります(後述の「よくある質問」をご覧ください)。最低額を狙うなら、報酬を限界まで削るのではなく、保険料が変わらない範囲で高めに取る——同じ保険料で法人の損金と手取りだけが増えるためです。
次に令和8年度の料率を掛ける
令和8年度の料率は次のとおりです。協会けんぽの健康保険料率は毎年3月分(4月納付分)から見直されます。東京支部は令和8年度に9.91%から9.85%へ引き下げられました。子ども・子育て支援金率は令和8年4月分(5月納付分)からの適用です。
- 健康保険料率(協会けんぽ東京支部):9.85%
- 介護保険料率(40歳〜64歳の方のみ加算・全国一律):1.62%
- 子ども・子育て支援金率:0.23%(令和8年4月分=5月納付分から。全国一律で、年齢を問わず健康保険の被保険者全員に加算されます)
- 厚生年金保険料率:18.3%(平成29年9月分以降、固定)
▶ 標準報酬月額の全50等級ごとの保険料額(本人負担・会社負担・勤務地の都道府県別)は、社会保険料の早見表【令和8年度・都道府県別】で一覧できます。
合計するといくらになるか
役員報酬を月45,000円に設定した場合(協会けんぽ東京支部・令和8年度)の金額です。会社負担分と本人負担分の合計で示しています。ひとり社長のマイクロ法人では会社負担分も実質的にご自身の財布から出るためです。
| 内訳 | 計算 | 月額 | 年額 |
|---|---|---|---|
| 健康保険料(40歳未満) | 58,000円 × 9.85% | 5,713円 | 68,556円 |
| 子ども・子育て支援金 | 58,000円 × 0.23% | 133円 | 1,596円 |
| 厚生年金保険料 | 88,000円 × 18.3% | 16,104円 | 193,248円 |
| 合計(40歳未満) | — | 21,950円 | 約26.3万円 |
| 介護保険料(40〜64歳の方) | 58,000円 × 1.62% | +940円 | +11,280円 |
| 合計(40〜64歳) | — | 22,890円 | 約27.5万円 |
協会けんぽ東京支部・令和8年度/標準報酬月額は健康保険58,000円・厚生年金88,000円
国民健康保険・国民年金と比べるとどうなるか
比較の相手は、個人事業主のままだったときに払う国民年金保険料と国民健康保険料です。なお下表には基礎となる金額が2つ出てきます。同じ役員報酬でも、健康保険は標準報酬月額58,000円、厚生年金は88,000円と、当てはまる等級が制度ごとに別に決まるためです(前掲の等級表をご覧ください)。
| 項目 | 個人事業のまま(国保+国民年金) | 二刀流(マイクロ法人の社会保険) | 差 |
|---|---|---|---|
| 年金の保険料 | 国民年金 年215,040円(定額。所得に関係なく同額) | 厚生年金 年193,248円(標準報酬月額88,000円) | マイクロ法人が年21,792円安い |
| 年金の給付 | 老齢基礎年金のみ | 老齢基礎年金+老齢厚生年金の上乗せ | 1年の加入につき年約5,788円の上乗せ(10年で年約5.8万円)。会社員時代など他の期間の分は当時の標準報酬で計算されます |
| 医療の保険料 | 国民健康保険。前年の所得に応じて増える | 健康保険料+子ども・子育て支援金で年70,152円に固定。所得が増えても変わらない | 所得が増えるほど差が開く |
| 医療の保険料の上限 | 賦課限度額 年96万円(40〜64歳は113万円) | 年70,152円。そもそも所得で増えないため上限という概念がない | 上限に達している方なら年約89万円(40〜64歳は約105万円) |
| 家族の保険料 | 「扶養」の考え方がなく加入者一人ひとりに保険料。配偶者は国民年金も自分で納付 | 被扶養者・国民年金第3号被保険者は追加負担なし | 家族が増えても月21,950円は変わらない |
※「差」欄は当事務所が計算した概算です。医療の保険料の上限の差は、国民健康保険料が賦課限度額に達している場合の最大値で、所得がそこに届かない方の差はこれより小さくなります。
この差は小さくありません。特別区の令和8年度でいえば、配偶者を国民健康保険の同一世帯に加えると、均等割(医療分47,600円+後期高齢者支援金等分17,600円+子ども・子育て支援納付金分1,873円=年67,073円)と配偶者自身の国民年金保険料(年215,040円)が加わります。被扶養者・国民年金第3号被保険者にできる場合との差はおおむね年28.2万円広がる計算です(配偶者に所得がない前提での当事務所の試算。所得があれば所得割も増えるため差はさらに広がります)。
ただし被扶養者の要件は、原則として年間収入130万円未満(60歳以上または障害厚生年金の受給要件に該当する程度の障害者は180万円未満)で、同居の場合は被保険者の年間収入の2分の1未満です。役員報酬を月45,000円(年54万円)にすると、この2分の1要件はかなり厳しくなります。扶養に入れられる前提で試算しないでください。認定は保険者の判断によるため、事前に年金事務所でご確認ください。
※関係を示すイメージ図です。縦軸・横軸に縮尺はありません
東京都特別区の料率で試算——年間いくら違い、維持コストを引くといくら残るのか
東京都特別区の令和8年度の統一保険料率(医療分 所得割7.51%+均等割47,600円、後期高齢者支援金等分 所得割2.80%+均等割17,600円、子ども・子育て支援納付金分 所得割0.27%+均等割1,873円〈1人あたり1,800円+18歳以上の加算73円〉)で試算した概算です。なお一部の区は独自の料率を設定しているため、お住まいの区の料率をご確認ください。40歳未満・単身・所得は事業所得のみ・所得割の基礎は「所得−43万円」という前提で、端数処理と軽減措置は考慮していません。
| 個人事業の所得 | 個人事業のまま (国保+国民年金) |
二刀流 (マイクロ法人の社会保険) |
差 |
|---|---|---|---|
| 200万円 | 約44.8万円 | 約26.3万円 | 約18.5万円 |
| 300万円 | 約55.4万円 | 約26.3万円 | 約29.1万円 |
| 500万円 | 約76.6万円 | 約26.3万円 | 約50.2万円 |
| 700万円 | 約97.7万円 | 約26.3万円 | 約71.4万円 |
※上表は特別区が公表している令和8年度の統一保険料率をもとに当事務所が独自に計算した概算であり、各区が公表している金額ではありません。端数処理・保険料の軽減措置・世帯人数は考慮していないため、実際の金額とは異なります。
東京都特別区・令和8年度/40歳未満・単身・所得は事業所得のみの概算。二刀流側は役員報酬で決まるため所得が増えても変わりません
ここから法人の維持コスト(法人住民税の均等割 年7万円+税理士報酬・設立実費)を差し引いた残りが、保険料面での差の目安です。維持コストは税理士報酬などで変わりますので、本記事上部の「かんたん計算」に実額を入れてご確認ください。ただし上表は社会保険料だけの比較です。保険料が減れば社会保険料控除も減るため個人の所得税・住民税は増えますし、法人側では法人税・法人住民税もかかります。税金まで含めた最終的な手取りは、無料シミュレーションでご確認ください。ご家族の人数・お住まいの市区町村・国民健康保険料の軽減の適用によっても交点は動きます。
所得が増えるほど差が開き、所得が小さいほど差は縮みます。上表より所得が低い場合は国民健康保険料の軽減(7割・5割・2割)が適用されることもあり、差はさらに小さくなります。慌てて作る必要はありません。
▶ なお、ここでの比較は「本業は個人事業のまま残す(二刀流)」ことを前提にしています。個人事業をやめて事業をまるごと法人へ移すかどうかで迷っている方は、法人成りの判断基準と18のチェックリストで適否とタイミングを先に確認してください。
注意
後述の令和8年3月18日の厚生労働省通知が示す判断要素(経常的な労務の提供と、その対価として法人から経常的に支払われる報酬)に照らすと、実務上、役員報酬を0円にすると健康保険・厚生年金の被保険者として取り扱われません。国民健康保険・国民年金のままとなり、二刀流そのものが成立しません。「報酬をゼロにすれば保険料もゼロ」という設計は取れない、とご理解ください。
ご自身の所得での税・社会保険料の合計がいくらになるかは、当事務所の無料シミュレーションで確認できます。
▶ 本記事は「下限に張り付けたとき保険料が実額いくらになるか」を扱っています。役員報酬の決め方そのもの(資金繰り→社会保険→税の順で決める型)は、役員報酬の決め方【創業期の型】で解説しています。
Eligibility
▶ 逆に役員報酬を上げた場合に手取りと社会保険料がどう変わるかは、役員報酬の手取り早見表【令和8年版】で月10万〜150万円まで一覧で確認できます。
マイクロ法人の社会保険は、どこまで認められるか——令和8年3月18日通知と「役員の実態」
この通知は、社会保険料の削減を名目に個人事業主等を法人の役員としながら、会費等と称して役員報酬を上回る額を支払わせている事業所が存在することを背景に出されたものです。そのうえで、法人役員の被保険者資格を次の2点で総合的に判断するとしています。
- その業務が「法人の経営に対する参画を内容とする経常的な労務の提供」であるか
- 報酬が「当該業務の対価として当該法人より経常的に支払いを受ける」ものであるか
そして、法人に使用されている実態がない者については被保険者資格を有さないものとし、確認された場合は資格喪失の届出を提出させて資格を喪失させる、とされています。
あわせてこの通知は、「法人の役員である個人事業主等」については、役員報酬を上回る会費等の支払があるかどうかに加えて、役員としての業務に指揮命令権を有する職員や決裁権を有する所管業務があるか、役員間の調整や会議への出席状況はどうか——こうした点も総合的に確認するとしています。通知が確認の対象として挙げているのは「法人の役員である個人事業主等」という区分であり、二刀流の設計と重なります。会費徴収型のスキームだけの話として読まないほうが安全です。
当事務所としては、ご自身で設立し、実際に経営に関与している法人が、この通知によって直ちに被保険者資格を否定されるものではないと考えています。ただし、資格が「経常的な労務の提供」と「業務の対価としての経常的な報酬」で判断されるという枠組みは、すべての法人役員に共通して効きます。役員報酬の水準を下げること自体は否定されていませんが、法人側に実際の業務・意思決定があることを説明できる状態にしておく必要がある、ということです。
ひとり社長の法人には、指揮命令の対象となる職員が通常いません。ただし当事務所は、通知がこれらを総合的に判断する要素として挙げており、ひとつでも欠ければ直ちに資格を失うとは書いていない、と読んでいます。決裁権を有する所管業務——契約の締結、価格の決定、外注先の選定など——が実際にご自身にあり、それを説明できる状態であることが実務上の備えになります。なお被保険者資格の最終的な判断は保険者(年金事務所)が行います。ご自身の設計が説明できる状態かどうか迷う場合は、年金事務所にもご確認ください。
元調査官の視点
税務でも社会保険でも、判断の軸は名義ではなく実態です。所得の帰属は名義人ではなく実質的にその収益を享受する者で判断され(所得税法12条、法人税法11条=実質所得者課税の原則)、同族会社については行為・計算の否認規定も置かれています(法人税法132条)。したがって、名刺や契約書の名義だけを分けても、業務の流れ・取引先とのやり取り・お金の動きが一体であれば、ひとつの事業として扱われます。逆にいえば、事業ごとに契約・請求・入金口座・帳簿が分かれ、法人側にも実際の業務があるなら、二刀流は制度上否定される取扱いではありません。ただし成否は個別の事実認定によりますので、区分が説明できる状態かどうかは実際の契約・請求の形を見て判断する必要があります。
Merits
マイクロ法人の主なメリット
01
社会保険料の最適化
保険料が役員報酬で決まるため、等級表の下限に収まれば年約26.3万円で固定されます。所得に応じて上がる国民健康保険と違い、稼いでも増えません(金額が動くとすれば料率の改定によってです)。配偶者を被扶養者にできる場合の違いは前章のとおりです。
02
税負担の分散
所得税は累進課税(最高45%)ですが、中小法人の法人税は年800万円以下の所得金額について15%の軽減税率があります(措法42条の3の2)。所得を個人と法人に分けることで、全体の税率を抑えられる可能性があります。
03
経費・制度の幅が広がる
出張旅費規程による日当、社宅制度、退職金の損金算入など、法人ならではの選択肢が使えます。いずれも規程の整備と、その内容が社会通念上相当な範囲であることが前提です。日当や社宅は通常必要と認められる範囲を超える部分が給与として課税され、役員退職金は不相当に高額な部分が損金になりません。取引先によっては、法人であることを取引の条件としている場合があります。
ただし本記事の二刀流のように法人側の事業を小さく保つ設計では、法人に残る所得自体が小さいため、この分散効果は限定的です。なお法人税の軽減税率は恒久措置ではなく、現行の適用期限は令和9年3月31日までの間に開始する各事業年度です(措法42条の3の2第1項)。これまで延長が繰り返されていますが、恒久措置ではありません。また令和7年4月1日以後に開始する事業年度からは、所得金額が年10億円を超える事業年度について、年800万円以下の部分の税率が17%に引き上げられています(国税庁タックスアンサーNo.5759)。マイクロ法人の規模では通常15%のままですが、本業の法人が大きい方はご注意ください。
Entity Type
合同会社と株式会社、どちらで作るか
| 項目 | 合同会社 | 株式会社 |
|---|---|---|
| 設立費用の目安 | 約6〜10万円(定款認証不要) | 約17〜21万円 |
| 役員の任期 | なし(重任登記不要) | 原則あり(登記費用が発生) |
| 決算公告 | 義務なし | 義務あり |
| 資金調達の手段 | 株式を発行できない | 株式の発行による調達が可能 |
| 向いているケース | コスト最優先のマイクロ法人 | 事業拡大・対外取引を重視する場合 |
設立・維持コストを最優先するなら合同会社が選択肢になります。定款認証が不要で、役員の任期がないため重任登記の費用も発生しないためです。対外的な信用や将来の資金調達を重視するなら株式会社を選びます。なお、市区町村の特定創業支援等事業の証明書を受けると登録免許税が軽減されます。制度の使い方は川崎市の特定創業支援等事業で解説しています(同様の制度は多くの自治体にあります)。
Cautions
デメリットと注意点——「作れば得」ではない
維持コストが毎年かかる:赤字でも法人住民税の均等割(資本金等1,000万円以下・従業者50人以下なら道府県民税2万円+市町村民税5万円の年7万円が標準税率。地方税法52条1項・312条1項。東京23区内では、これらをあわせて法人都民税として都に納めます)が発生します。税理士報酬を含めると、メリットが年間コストを上回るかの見極めが必要です。
事務負担の増加:法人税・法人住民税・法人事業税等の申告、社会保険の手続き、役員報酬の改定ルール(原則、会計期間開始の日から3か月を経過する日まで。法人税法34条1項1号、法人税法施行令69条1項1号)など、個人事業より格段に複雑になります。
事業実態の区分が必須:個人事業と同一の事業を形式的に法人へ付け替えただけでは、所得の不当な分散と判断されるリスクがあります。契約・請求・入金口座・業務実態を明確に分けることが大前提です。
役員の被保険者資格が問われる場合がある:令和8年3月18日、厚生労働省は「法人の役員である個人事業主等に係る被保険者資格の取扱いについて」(保保発0318第1号・年管管発0318第1号)を発出しました。詳細は前掲の「マイクロ法人の社会保険は、どこまで認められるか——令和8年3月18日通知と「役員の実態」」をご覧ください。
インボイスの2割特例は令和8年9月30日を含む課税期間で終わる:2割特例(納付税額を売上税額の2割にできる経過措置)が使えるのは、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する課税期間までです(平成28年改正法附則51条の2)。マイクロ法人(法人)側は、これ以降は原則課税か簡易課税の選択になります。一方、個人事業者については令和8年度税制改正で「3割特例」が創設され、令和9年分・令和10年分に限り納付税額を売上税額の3割にできます(法人は対象外)。ただし対象は、インボイス登録により免税事業者から課税事業者になった個人事業者に限られます。二刀流では法人側と個人側で扱いが分かれる点にご注意ください。
給付も最低水準になる:保険料が下がるということは、給付の算定基礎も下がるということです(詳細はこの章のあとの見出しで説明します)。
やめるときにもコストがかかる:いったん設立した法人をたたむ場合、解散・清算結了の登記、官報公告、清算に係る申告が必要で、費用と手間がかかります。所得が伸びるかどうかを見極めてから設立するほうが安全です。
役員報酬は自由に変えられない:期中の増減額は原則損金になりません(定期同額給与)。低すぎる報酬設定も、業務実態との整合性を問われることがあります。
なお簡易課税は、原則として適用を受けたい課税期間の初日の前日までに届出が必要ですが、2割特例の適用を受けた課税期間の翌課税期間については、その翌課税期間に係る確定申告期限までに提出すれば間に合います(平成28年改正法附則51条の2第6項・51条の3第5項。翌課税期間が令和8年9月30日以前に終了する場合は、その翌課税期間中の提出が期限です)。2割特例の終了に気づくのが遅れても、選択の余地は残ります。
保険料が下がる分、将来の年金と傷病手当金も下がる
保険料の話とセットで確認しておきたい点です。社会保険料は標準報酬月額をもとに計算されますが、給付の額も同じ標準報酬月額をもとに決まります。等級表の下限に張り付けるということは、給付の算定基礎も下限に張り付けるということです。
保険料と給付は同じ標準報酬月額で決まるため、片方だけを下げることはできません
- 老齢厚生年金:報酬比例部分は、平均標準報酬額(標準報酬月額と標準賞与額の平均)に5.481/1000と被保険者期間の月数を乗じて計算します(厚生年金保険法43条1項)。標準報酬月額88,000円で加入した期間は、1年につき年約5,788円(88,000円×5.481/1000×12か月)の上乗せにとどまり、10年続けても年約5.8万円です。ただし計算の基礎は被保険者期間全体の平均であり、会社員時代など標準報酬月額が高かった期間はその額で計算されます。老齢厚生年金の全体が小さくなるわけではなく、小さいのはマイクロ法人に在籍している期間の分です。なお老齢基礎年金の額は保険料の納付済期間で決まるため、国民年金第1号被保険者でも厚生年金の被保険者でも変わりません(国民年金法27条)。「年金が減る」わけではなく「この期間の上乗せが小さい」ということです。
- 傷病手当金・出産手当金:1日あたりの額は、標準報酬月額を平均した額の30分の1の3分の2です(健康保険法99条2項・102条2項)。標準報酬月額58,000円なら1日あたり1,287円です。さらに、報酬を受けられる期間はこれらの手当金は支給されず、報酬額が手当金の額より少ないときにその差額だけが支給されます(健康保険法108条1項・2項)。役員報酬を月45,000円(日額換算1,500円)にしていると日額1,287円を上回るため、報酬が支払われ続けるかぎり実際には支給されません。
国民健康保険ではこれらは任意給付で、条例で定めた場合に限られます(国民健康保険法58条2項)。健康保険では法定給付ですが、低額の役員報酬では実質的に機能しにくい——保険料の安さと引き換えに手放すものがある、とご理解ください。
How to Start
マイクロ法人の作り方——設立から社会保険の切替まで7ステップ
設立手続き自体は通常の会社設立と同じですが、マイクロ法人は「社会保険の切替」までがワンセットである点が違います。全体の流れは次のとおりです。
各ステップの費用・期限の詳細は下の表をご覧ください
| ステップ | やること | ポイント・費用・期限 |
|---|---|---|
| STEP1 | 会社の基本事項を決める | 商号・本店所在地・事業目的・資本金・決算期。事業目的は個人事業側と明確に区分できる内容に(前章参照) |
| STEP2 | 定款を作成する | 合同会社は認証不要。株式会社は公証役場の定款認証が必要(手数料は表の下を参照)。電子定款なら印紙代4万円が不要 |
| STEP3 | 資本金を払い込む | 発起人(社員)個人の口座に振込し、通帳コピー等を保存 |
| STEP4 | 法務局で設立登記 | 登録免許税は資本金の額の1000分の7で、合同会社は最低6万円、株式会社は最低15万円。完了まで1〜2週間が目安(管轄法務局の混雑状況により異なります) |
| STEP5 | 税務署・自治体へ届出 | 法人設立届出書ほか(提出書類と期限は表の下を参照) |
| STEP6 | 年金事務所で社会保険に加入する | 新規適用届は事実の発生から5日以内に年金事務所へ(提出書類は表の下を参照) |
| STEP7 | 市区町村で国民健康保険をやめる/法人口座・経理体制を整える | 国民健康保険の資格喪失の届出(原則14日以内)と、法人口座・経理体制の整備 |
STEP5で提出するのは、法人設立届出書・給与支払事務所等の開設届出書・源泉所得税の納期の特例に関する申請書と、都道府県・市区町村への設立届です。青色申告承認申請書は、設立の日以後3か月を経過した日と第1期の事業年度終了の日のうち早い日の前日までに提出します(法人税法122条2項1号)。
株式会社の定款認証手数料は、資本金の額等に応じて3万円・4万円・5万円です。ただし令和6年12月1日以降は、資本金100万円未満で発起人が3人以下などの要件をすべて満たせば1万5,000円になります。設立実費の目安は、電子定款を使った場合で合同会社が約6〜10万円、株式会社が約17〜21万円です(株式会社は登録免許税15万円に定款認証手数料1万5,000円〜5万円と謄本代等を加えた幅です)。
STEP6で年金事務所へ出すのは、新規適用届と被保険者資格取得届です。扶養に入れる方がいれば健康保険被扶養者(異動)届も同時に提出します。STEP7では、個人事業側とお金・売上・経費を混ぜない仕組みづくりもあわせて行ってください。
社会保険に加入しても国民健康保険は自動では脱退になりません。届出をしないと国保料の請求が続きますので、健康保険証(資格確認書)が届いたら忘れずにSTEP7の手続きをしてください。
STEP1で決める4つの事項
- 本店所在地:自宅を本店にすることもできますが、賃貸物件なら賃貸借契約で法人登記が認められるかを先に確認してください。本店所在地は登記事項として公開されます。
- 資本金:1円でも設立できます。ただし資本金が1,000万円以上だと、基準期間がない事業年度でも消費税の納税義務が免除されません(消費税法12条の2第1項)。株式会社で定款認証手数料を1万5,000円にしたい場合は100万円未満という要件もあります。
- 決算期:個人事業の12月決算と決算作業が重ならない月を選ぶと、二刀流の事務負担が平準化されます。繁忙期を避けるのも一案です。
- 事業目的:個人事業側と明確に区分できる内容にします。ここが後の「事業実態の区分」の出発点になります(具体例はよくある質問をご覧ください)。
ご自身で進められること/専門家に相談したほうがよいこと
| ご自身で進められること | 相談したほうがよいこと |
|---|---|
| 合同会社の設立手続き(電子定款・登記) | 個人事業と法人の事業区分が実態として成立しているかの判定 |
| 協会けんぽの保険料額表で、ご自身の支部の等級と料率を確認すること(月63,000円未満なら保険料が同額であることの確認) | 役員報酬をいくらに設定するか(法人側の業務実態と釣り合っているかの判断を含む) |
| 年金事務所への新規適用届・資格取得届、市区町村での国保脱退の届出 | 2割特例終了(令和8年9月30日が属する課税期間まで)後の課税方式の選択 |
| 設立後の記帳・法人口座と個人事業口座の分離 | 二刀流とフル法人成りのどちらが有利かの試算、役員報酬の改定タイミング |
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FAQ
よくある質問
役員報酬を月45,000円に設定した場合、会社負担と本人負担の合計で月21,950円(年約26.3万円)です。40歳〜64歳の方は介護保険料が加わり月22,890円(年約27.5万円)になります。内訳は健康保険料5,713円・子ども・子育て支援金133円・厚生年金保険料16,104円です。いずれも協会けんぽ東京支部の令和8年度料率にもとづく金額で、健康保険は標準報酬月額58,000円、厚生年金は同88,000円の等級で計算しています。健康保険料率は都道府県支部ごとに異なり、毎年3月分から改定されます。
金額で一律に線を引くことはできませんが、計算の形は決まっています。まず「(現在の国民健康保険料+国民年金保険料 年215,040円)−(マイクロ法人の社会保険料 年263,400円)」で保険料の増減額を出し、そこから「法人住民税の均等割 年7万円+税理士報酬+設立実費の初年度負担」を差し引いた残りが、手残りの差です。現在の国民健康保険料は、お手元の保険料納入通知書の年額か、お住まいの市区町村の保険料試算ページで確認できます。ただしこの式は社会保険料だけの比較で、社会保険料控除が減ることによる所得税・住民税の増加や法人側の税金は含まれていません。シミュレーションには「前年の事業所得」「お住まいの市区町村」「扶養に入れる家族の有無」の3つをご用意ください。なお、個人事業をやめて法人へ一本化するかどうかで迷っている場合は、先に「法人成りの判断基準と18のチェックリスト」(本文中にリンクがあります)をご確認ください。
法人の役員として社会保険(健康保険・厚生年金)に加入すれば、国民健康保険・国民年金からは外れます。個人事業の所得がいくら増えても、社会保険料は法人からの役員報酬を基準に計算されます。これが二刀流の中心的なしくみです。ただし国民健康保険は自動では脱退にならないため、市区町村への届出が別途必要です。
実務上、役員報酬が0円だと社会保険の被保険者として取り扱われません。国民健康保険・国民年金に加入したままとなり、二刀流の狙い(所得に連動しない保険料への切替)が実現しないことになります。令和8年3月18日の厚生労働省通知でも、被保険者資格の判断要素として「業務の対価として法人から経常的に支払いを受ける報酬」が挙げられています。保険料を下げる目的であれば、等級表の下限に収まる範囲で報酬を支払う設計が前提です。
取引先・業務内容・収益構造が明確に異なる事業であることが理想です。例えば本業が制作受託なら、法人側は自社メディア運営・物販・不動産賃貸などが考えられます。判断の軸は業種名ではなく、契約・請求・入金口座・業務実態の4つが分かれているかどうかです。同じ顧客に同じサービスを提供して契約名義だけ法人に変える形は、実質所得者課税の原則(所得税法12条・法人税法11条)に照らして事業の区分を説明しにくい形です。
社会保険料の観点だけなら、等級表の下限に収まる月63,000円未満であれば保険料は同額です。ただし法人側の業務の内容・量と釣り合っていることが前提になります。決め方の手順そのもの(資金繰り→社会保険→税の順で決める型)は「役員報酬の決め方【創業期の型】」で解説しています。本記事は「下限に張り付けたときの実額」を扱っています。
出典・参考(2026年7月26日確認)
- 健康保険法40条1項(標準報酬月額の等級)/厚生年金保険法20条1項(同)/健康保険法3条3項2号・厚生年金保険法6条1項2号(法人の強制適用事業所)/所得税法12条・法人税法11条(実質所得者課税の原則)/法人税法132条(同族会社等の行為又は計算の否認)/地方税法52条1項・312条1項(法人住民税均等割)
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)「令和8年度保険料額表」(東京支部・令和8年3月分〜)
- 日本年金機構「厚生年金保険の保険料」(保険料率18.3%・標準報酬月額32等級)
- 全国健康保険協会「傷病手当金」(標準報酬月額の平均÷30×3分の2。健康保険法99条2項・102条2項。報酬を受けられる期間の不支給は同法108条1項・2項)/国民健康保険法58条2項(傷病手当金・出産手当金は任意給付)
- 日本年金機構「国民年金保険料」(令和8年度 月額17,920円)
- 厚生労働省「法人の役員である個人事業主等に係る被保険者資格の取扱いについて」(令和8年3月18日 保保発0318第1号・年管管発0318第1号。通知本文PDF)
- 全国健康保険協会「協会けんぽの子ども・子育て支援金率について」(0.23%・令和8年4月分=5月納付分〜)
- 東京都保健医療局「国民健康保険事業費納付金及び標準保険料率」/足立区「令和8年度の国民健康保険料」(特別区統一保険料率・均等割額・賦課限度額・職場の健康保険加入時の脱退届)
- 日本年金機構「新規適用の手続き」(新規適用届は事実発生から5日以内)/同「健康保険の被扶養者」(年間収入130万円未満・被保険者の年間収入の2分の1未満)
- 消費税法12条の2第1項(資本金1,000万円以上の新設法人の納税義務の免除の特例)/厚生年金保険法43条1項(老齢厚生年金の額)・国民年金法27条(老齢基礎年金の額)
- 国税庁 タックスアンサー No.5759「法人税の税率」(措法42条の3の2)
- 国税庁「インボイス制度の見直し(令和8年度税制改正)」(2割特例の終了・3割特例の創設)
- 国税庁 インボイスQ&A 問117(2割特例適用後の簡易課税制度選択届出書の提出時期の特例・平成28年改正法附則51条の2第6項)
- 国税庁 タックスアンサー No.5211「役員に対する給与(定期同額給与)」(法人税法34条1項1号、法人税法施行令69条1項1号)
- 国税庁「青色申告書の承認の申請」(法人税法122条2項1号)
- 国税庁 タックスアンサー No.7191「登録免許税の税額表」/日本公証人連合会「定款認証手数料の改定」
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。制度は改正されることがあり、個別の状況により結論は異なります。実行前に必ず個別にご相談ください。
執筆:好川 寛(税理士・元国税調査官/東京国税局15年・調査・審理・国税不服審判所、事業会社でのプロダクトマネージャー経験)



