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確定申告の義務があるのは誰?——「副業20万円超なら義務」が正確ではない理由【元国税調査官が図解】

確定申告の義務は3つの関門で決まる。副業20万円超なら義務が正確ではない理由の図解

この記事でわかること

  • 確定申告の義務は「◯◯なら義務」というトリガー式ではなく、「計算して納める税額が残るか」から始まる3段階の判定で決まること
  • 「副業20万円超なら申告義務」の20万円ルールは、義務を生む条件ではなく義務を消す特例(免除)であること
  • 還付になる人には申告義務がなく、還付申告は義務ではなく「権利」で、通常の確定申告期限とは別に翌年1月1日から5年間できること
  • 個人事業主に20万円ルールはないこと・所得税で申告不要でも住民税の申告が別途必要になる場合があること

「副業の所得が20万円を超えたら確定申告の義務がある」「給与を2か所からもらっていたら確定申告が必要」——検索するとこう書かれた記事が数多く出てきます。覚えやすい説明ですが、正確ではありません。私は元国税調査官として、また税務記事の監修者として、この論点を何十回と修正してきました。それくらい、確定申告の義務は「最も基本的なのに、最も誤解されている」テーマです。

誤解の出どころを、まず実物で確認してください。国税庁は、「確定申告が必要な方」(給与所得がある方)をこう案内しています。

次の計算において残額があり、さらに(1)から(6)のいずれかに該当する場合」

前半 所得から所得控除を差し引き、税率を掛け、配当控除などを差し引いて、納める税額が残ること
後半 そのうえで、次の(1)〜(6)のいずれかに該当すること

  • (1)給与の収入金額が2,000万円を超える
  • (2)給与を1か所から受けていて、給与・退職所得以外の所得の合計額が20万円を超える
  • (3)給与を2か所以上から受けていて、年末調整されなかった給与の収入金額と給与・退職所得以外の所得との合計額が20万円を超える
  • (4)同族会社の役員やその親族などで、その会社から給与のほかに貸付金の利子や店舗の賃貸料などを受け取っている
  • (5)給与について、災害減免法により源泉徴収税額の徴収猶予や還付を受けた
  • (6)在日外国公館に勤務する方や家事使用人の方などで、給与から所得税等を源泉徴収されないこととなっている

出典:国税庁「確定申告が必要な方」。(1)〜(6)の文言は要約です。

誤解が広まる理由ははっきりしています。この案内が「残額があり、さらに(1)〜(6)」という二段構えで書かれているのに、前半の「計算において残額があり」という大前提が読み飛ばされ、後半の(1)〜(6)だけが「義務のトリガー」として一人歩きしているからです。この記事では、この国税庁の案内を条文(所得税法120条〜123条)まで遡って、図解で「超翻訳」します。

まず結論——よくある説明と、正確な整理

よくある説明 正確な整理
副業の所得が20万円を超えたら申告義務がある 20万円超は「免除が使えなくなる」条件。義務があるかは、まず税額計算で納める残額が出るかで決まる
給与を2か所からもらっていたら申告義務がある 2か所給与でも、計算して還付になる人に義務はない(申告すれば取り戻せるだけ)。従たる給与20万円以下などの免除もある
個人事業主も、もうけが20万円以下なら申告不要 20万円ルールは給与所得者・年金受給者の特例。個人事業主には存在しない(納める税額が出れば申告義務)
還付になる場合も確定申告をしなければならない 還付になる人は義務から除外されている。還付申告は「権利」で、翌年1月1日から5年間いつでもできる
20万円以下で申告不要なら、住民税も何もしなくてよい 20万円ルールは所得税だけの特例。住民税には同じ特例がないため、市区町村への住民税の申告が別途必要になる(所得税の確定申告をすれば不要)

図解①:確定申告の義務は「3つの関門」で判定する

国税庁の案内を1枚のフローに翻訳すると、こうなります。一般的な給与所得者や個人事業主のケースでは、上から順にこの3つの関門を確認すれば、申告義務の基本構造が整理できます(退職所得や申告分離課税の所得など、別枠の判定があるものは後述の注記のとおりです)。

STEP 1税額を計算して「残額」が出るか?所得の合計 − 所得控除 = 課税所得 → 税率を掛けて算出税額算出税額 − 配当控除・年末調整済みの住宅ローン控除 = 残額※ここでは源泉徴収税額はまだ引かない残額が出ない → 義務なし例:所得が基礎控除等の範囲内NOYES(残額あり)STEP 2すでに納めた税額を差し引くと、最終的に還付になるか?残額 − すでに納めた税額(源泉徴収・予定納税) がマイナスなら「還付」法120条カッコ書きにより、還付になる人は義務から除外される還付になる → 義務なし還付申告(法122条)は「権利」通常の申告期限とは別に、翌年1/1から5年間YESNO(納める税額が残る)STEP 3「申告不要の特例」(法121条)に当てはまるか?給与1か所・年末調整済み・給与以外の所得20万円以下 など(給与2,000万円以下が大前提。年金は収入400万円以下+他の所得20万円以下)「20万円ルール」はここ。義務を生む条件ではなく、義務を消す特例特例に該当 → 義務なし※住民税の申告が別途必要な場合ありYESNO確定申告の義務あり翌年2/16〜3/15に申告・納付

ポイントは順番です。世の中の記事はSTEP3(20万円などの特例)から話を始めますが、条文はSTEP1(税額計算)から始まります。所得が基礎控除などの所得控除の範囲に収まって残額が出ない人は、副業がいくらあろうと、給与が何か所あろうと、その時点で義務はありません。そしてSTEP2——残額が出ても、源泉徴収や予定納税ですでに払いすぎていて還付になる人も、義務から外れます。ここまで来てはじめて、STEP3の「20万円ルール」の出番です。

元国税調査官の視点

税務職員向けの研修でも、この120条まわりは受講者が最も混乱する論点のひとつでした。私自身、税務記事の監修の現場で「20万円超=義務」のトリガー型の原稿を何十回と修正してきました。わかりやすさを優先した説明が、いつのまにか義務の発生条件にすり替わってしまう——それほど、この条文構造は直感に反します。

図解②:条文は4つでワンセット——120条〜123条の地図

なぜ3段階になるのか。所得税法の4つの条文が、それぞれ別の役割を分担しているからです。

第120条義務の発生計算して納める税額が残る人に申告義務を課す(〜しなければならない)※カッコ書きで「還付になる人」を除外 → その受け皿が122条第121条義務の免除120条で義務がある人でも、給与・年金の一定の人は「提出を要しない」※「20万円ルール」の正体はこの免除特例 (所得税だけ。住民税に同じ特例はない)第122条還付を受ける権利還付になる人は義務ではなく、受けたい人だけ申告できる(〜できる)※3/15の期限なし。翌年1/1から5年間第123条損失を税務上活用するための申告損失を翌年以降の所得と相殺するなど、税務上利用したい人が申告(〜できる)※申告しないと繰越控除を使えない免除還付になる人はこちらへ赤字の人はこちらへ

第120条が義務を発生させ、そのカッコ書きが「源泉徴収や予定納税で引ききれない(=還付になる)人」を義務から除外します。除外された人の受け皿が第122条の還付申告(権利)。第121条は、義務がある人のうち給与・年金の一定の人の義務を免除する特例——これが「20万円ルール」の正体です。そして損失が生じた年は、その損失を翌年以降の所得と相殺(繰越控除)するなど税務上活用するための任意の申告が第123条に用意されています。「義務」「免除」「権利」の3層を区別せずに語ると、冒頭のような誤解が生まれます。

「20万円ルール」の正体——義務を生む条件ではなく、消す特例

所得税法121条は「確定申告を要しない場合」という見出しのとおり、120条でいったん発生した義務を、条件付きで免除する規定です。給与1か所で年末調整が済んでいて、給与以外の所得が20万円以下——年末調整で課税が実質完結している人にまで申告させるのは酷なので、義務を勘弁してあげる。それだけの規定です。だから次の帰結がすべて条文から導けます。

帰結 理由
個人事業主に20万円ルールはない 121条は「給与所得を有する居住者」「公的年金等に係る雑所得を有する居住者」の特例だから
給与2,000万円超の人は使えない 121条の柱書が「給与等の金額が2,000万円以下であるもの」に限定しているから
同族会社の役員が自社から家賃や貸付利子を受け取っている場合、20万円以下でも免除されない 121条ただし書(政令)が適用を除外しているから
免除を使わず申告するなら、20万円以下の所得も全部含める 免除は「申告書を出さない」ことの特例であり、出す申告書から所得をつまみ食いで除く規定ではないから
所得税で申告不要でも、住民税の申告が別途必要になる場合がある 121条は所得税の特例で、住民税に対応する規定がないから
株や不動産の譲渡など申告分離課税の所得は、この特例の枠外 免除の対象は「課税総所得金額及び課税山林所得金額に係る所得税」に限定されているから(源泉徴収ありの特定口座などの申告不要は別の制度)

ケース別早見表——義務あり?なし?申告したほうが得?

3段階の判定を、よくある11のケースに当てはめました。「義務の有無」と「申告したほうが得か」は別の問題です。
※以下は、他に特殊な所得や申告分離課税の所得がない典型的なケースを前提にしています。

ケース 所得税の申告義務 解説
年末調整済みの会社員。副業所得25万円で納める税額が出る 義務あり 残額あり・還付でない・20万円超で免除も使えない
年末調整済みの会社員。副業所得15万円 なし(免除) 121条の免除。ただし住民税の申告は原則必要
会社員。医療費控除やふるさと納税(ワンストップ未利用)を受けたい なし 還付申告は権利。翌年1月1日から5年間いつでも
パート掛け持ち。片方は乙欄で源泉徴収され、計算すると還付 なし(還付) 義務ではないが、申告しないと取られすぎた税金は戻らない
2か所給与。従たる給与が20万円超で、計算すると納める税額が出る 義務あり 残額あり・還付でない・免除の要件も満たさない
給与収入2,000万円超 原則義務あり 年末調整がなく121条も使えない。計算して還付になる年だけは義務なし
個人事業主。所得が所得控除の範囲内で税額が出ない なし(税額なし) STEP1で終了。ただし住民税申告や国保のため申告しておく実益は大きい
個人事業主。黒字で納める税額が出る 義務あり 20万円ルールは関係ない
フリーランス。事業が赤字で、他の所得を含めても納める税額が出ない なし 義務はないが、申告(損失申告)しないと赤字を翌年に繰り越せない
年金収入400万円以下+その他の所得20万円以下 なし(免除) 年金版の申告不要制度。住民税の申告が必要になる場合あり
同族会社の役員。自社から家賃を受け取っていて、計算すると納める税額が出る(家賃などの所得は20万円以下) 義務あり 納める税額が残るのに、20万円以下でも121条ただし書で免除が使えない。役員の見落とし定番

※申告義務の有無は所得税のものです。「なし」のケースでも、住民税の申告義務は別途生じることがあります。また判定は各ケースの典型例によるもので、実際は個別の事情(他の所得・控除・分離課税の有無など)で変わります。

▶ パート・アルバイトの掛け持ちの方は、申告義務とは別に「年収の壁」(103万円・130万円など)の確認も必要です。年収の壁 早見表【令和8年度税制改正対応】にまとめています。

還付申告と損失申告——「しなくてもいいが、しないと損をする」申告

最後に、義務のない2つの申告を整理します。還付申告(122条)は取られすぎた税金を取り戻す権利の行使で、通常の確定申告期限とは別に、翌年1月1日から5年間いつでも提出できます。「3月15日を過ぎたからもう無理」というのも、還付申告には当てはまりません。損失申告(123条)は損失が生じた年の任意申告で、これを出しておかないと純損失の繰越控除(翌年以降3年間、青色申告の場合)が使えません。義務がないからと放置すると、翌年黒字が出たときに前年の赤字とぶつけられない——「義務はないが、申告しないと確実に損をする」典型です。なお「事業が赤字」でも、給与など他の所得との合計で納める税額が出る場合は通常の申告義務の判定に戻ります。

▶ 還付申告の代表例がふるさと納税(ワンストップ特例を使わない場合)です。控除の上限額はふるさと納税シミュレーター(無料)で試算できます。

よくある質問

副業の所得が20万円以下なら、何もしなくていいですか?
所得税の確定申告は不要にできますが、住民税には20万円ルールがないため、原則として市区町村への住民税の申告が必要です(所得税の確定申告をする場合は不要)。また医療費控除などで所得税の確定申告をする場合は、20万円以下の副業所得も含めて申告します。住民税がいくらからかかるか・いくらになるかは住民税の早見表で確認できます。
2か所から給与をもらっていたら、必ず確定申告が必要ですか?
必ずではありません。①税額計算で残額が出ない、②源泉徴収の取られすぎで還付になる、③従たる給与と他の所得の合計が20万円以下——のいずれかなら義務はありません。乙欄の源泉徴収税額表は扶養控除等を織り込まない高めの設計のため、年間で計算し直すと還付になることがあります。
還付申告に期限はありますか?
確定申告期限(3月15日)は関係なく、対象年の翌年1月1日から5年間提出できます。過去の年分の医療費控除などをまとめて申告することも可能です。
赤字なら申告しなくていいですか?
他の所得を含めても納める税額が出ないなら義務はありません。ただし損失申告をしないと赤字を翌年以降に繰り越せず、翌年黒字が出たときの税負担が大きくなります。青色申告の繰越控除は連続して申告書を提出していることが要件です。
申告義務があるのに申告しなかったらどうなりますか?
期限後申告や税務署の決定により、本来の税額に加えて無申告加算税と延滞税がかかります。義務の有無を正しく判定することが出発点ですが、義務がある場合の放置のコストは大きいです。税務署がどのように無申告を把握し、どのような連絡が来るのかはAI税務調査と「お尋ね」の解説記事で説明しています。

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プロゴ税理士事務所 税理士。元国税調査官。国税(調査・相談2万件・審判実務)×民間(事業会社実務・PdM)の経験からの複眼的な視点が強み。

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