税務署から税務調査の連絡を受けた個人事業主の方に向けて、調査の当日までに一人でできる準備をまとめました。調査官役を頼むプロンプトで当日の質問を予行演習し、答えを裏付ける資料を揃えるところまでを、元国税調査官の解説付きで紹介します。
結論から言うと、準備するのは上手な答え方より、答えを裏付ける資料です。
この記事でわかること
- 連絡を受けたら——調査か行政指導か、通知された内容、日程の変更、税理士への依頼
- 調査の進み方——実地調査と簡易な接触、修正申告を出す時期と加算税
- 予行演習のやり方——用意するもの、入力しないもの、調査官役を頼むプロンプト
- 実際にやってみた結果——架空の個人事業主で4つの段階を回した質問と、元国税調査官の解説
- 準備する資料——確認表をもとに揃える資料と、揃えるときに守ること
First
連絡を受けたら最初に確かめること
税務署から連絡を受けたら、予行演習の前に次の4つを確かめてください。電話で分からなかったことは、税務署にかけ直して聞いてかまいません。
| 確かめること | 理由 |
|---|---|
| 調査か、行政指導か | 行政指導に応じて自分で修正申告を出した場合、過少申告加算税はかかりません(延滞税はかかることがあります) |
| 伝えられた日時・場所・税目・期間・書類 | 調査の場合、税務署はこれらを事前に伝えることになっています(国税通則法74条の9) |
| 日程を変えられるか | 都合が悪いときは、理由を伝えて日程の変更を相談できます(同条第2項)。申し出は電話など口頭でかまいません |
| 税理士に頼むか | 税理士への依頼は、連絡を受けたあとからでもできます |
出典:国税庁「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」問2・問16・問17
「これは調査ですか」と聞いてかまいません。
税務署からの連絡には、税務調査と、申告内容の見直しをお願いする行政指導の2つがあります。税務署は、どちらとして連絡しているのかを、対面・電話・書面のどれであっても明示したうえで進めることになっています(国税庁「調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)」第2章1)。どちらなのかによって、このあと自分で修正申告を出したときに、過少申告加算税がかかるかどうかが変わります(国税通則法65条、税務調査手続に関するFAQ問2)。はっきりしないときは、その場で確かめてください。
通知された期間より前の年分を確認されることもあります。
通知された事項以外のことも、誤りが疑われれば確認されます(国税通則法74条の9第4項)。法律上は、法定申告期限から原則として5年、偽りその他不正の行為があれば7年まで、税額を直すことができます(同法70条)。開業から年数がたっている方は、通知された期間より前の帳簿と書類も、すぐ出せるようにしておくと安心です。
Flow
調査の連絡から終わるまで
税務署が個人の申告内容を確かめる方法には、自宅や事務所に来る「実地調査」と、文書・電話・来署依頼で行う「簡易な接触」があります。令和6事務年度の所得税では、実地調査が4万7千件、簡易な接触が68万9千件で、件数は簡易な接触のほうがずっと多いです(国税庁「令和6事務年度における所得税及び消費税調査等の状況」)。
詳しく見る:件数と追徴税額、実地調査の進み方と根拠の条文
| 区分 | 件数 | 追徴税額 |
|---|---|---|
| 実地調査 | 4万7千件 | 1,132億円(1件当たり241万円) |
| 簡易な接触 | 68万9千件 | 299億円 |
| 合計 | 73万6千件 | 1,431億円 |
所得税の調査等の状況、令和6事務年度(令和6年7月〜令和7年6月)。実地調査の件数には消費税の実地調査を含み、追徴税額は加算税を含む、調査した全部の年分の合計です。事業所得の人に限らない数字です。出典:国税庁「令和6事務年度における所得税及び消費税調査等の状況」
国税庁は簡易な接触を「原則、納税者宅等に臨場することなく、文書、電話による連絡又は来署依頼による面接を行い、申告内容を是正するもの」と説明しています。同じ資料では、調査先の選定にAIを活用していることも公表されています。
実地調査の連絡を受けた場合は、次の順に進みます。
| 段階 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 事前の通知 | 日時・場所・目的・税目・期間・確認する帳簿や書類などが伝えられます。税理士に依頼していれば、税理士にも伝えられます | 国税通則法74条の9 |
| 事前の通知がない場合 | 正確な事実の把握が難しくなるおそれがある場合などは、通知せずに来ることもあります | 同法74条の10 |
| 当日の質問と検査 | 事業の内容を聞き、帳簿や書類を確認します。書類を預かるときは、承諾を得て預り証を渡します | 同法74条の2、74条の7 |
| 調査の終わり | 誤りがなければ、そのことが書面で通知されます。誤りがあれば、内容・金額・理由が説明され、修正申告を勧められることがあります | 同法74条の11 |
| 修正申告か更正 | 修正申告を出さなければ、税務署が更正します。更正に納得できなければ、不服申立てができます | 同法24条、75条 |
過少申告加算税の割合は、修正申告を出した時期で変わります。境目は、調査の通知を受けたかどうかと、調査によって更正があることを予知したかどうかです(国税通則法65条1項・6項)。
| 修正申告を出した時期 | 過少申告加算税 |
|---|---|
| 調査の通知を受ける前(調査による更正を予知していない場合) | かかりません |
| 通知を受けたあと、更正を予知する前(原則として、調査官が来て調査が始まる前) | 5%(一定額を超える部分は10%) |
| 更正を予知したあと(調査が始まったあとなど)、または更正を受けた場合 | 10%(一定額を超える部分は15%) |
一定額は、期限内に申告した税額と50万円のいずれか多いほうです(所得税では、源泉徴収税額や予定納税額も加えて判定します)。国税庁の取扱いでは、臨場調査、取引先への反面調査、誤りの指摘などで調査があったことを知ったあとの修正申告は、原則として更正を予知したものとされ、調査の日時の連絡を受けた段階で出した修正申告は、原則として予知したものにあたりません(国税庁「申告所得税及び復興特別所得税の過少申告加算税及び無申告加算税の取扱いについて(事務運営指針)」第1の1)。このほかに延滞税がかかります。売上を隠すなどの仮装や隠蔽があれば、過少申告加算税に代えて、35%の重加算税がかかります(同法68条)。
▶ 調査に選ばれやすい人の特徴、事前通知の電話で確かめること、当日の答え方の原則は、個人事業主の税務調査で解説しています。
調査は承諾を得て進めますが、拒んだり偽ったりすると罰則があります。
調査官が部屋を見たり書類を預かったりするときは、その都度承諾を求めます。一方で、正当な理由なく質問に答えなかったり、検査を拒んだり、偽りの答えをしたりすると罰則があります(国税通則法74条の2・128条)。言いたくないことがある場合も、事実と違うことは答えないでください。分からないことは、「確かめてからお伝えします」で構いません。
Before
予行演習の前に用意するもの
予行演習では、税務署から伝えられたことと、自分の事業の数字を入力します。始める前に、次のものを手元に置いてください。
| 手元に置くもの | 使うところ |
|---|---|
| 税務署から伝えられた内容のメモ(日時・場所・税目・期間・確認したいと言われた書類) | 【税務署から伝えられたこと】の欄 |
| 調査の対象になる年分の確定申告書と、青色申告決算書(白色申告なら収支内訳書) | 売上、主な経費、家族への給与 |
| 会計ソフトの帳簿か、月ごとの売上がわかる資料 | 月ごとの売上の動き |
| 口座・カード・ネットのサービスの使い方のメモ | お金の流れと、帳簿や領収書の保管方法 |
金額は概数で十分です。今回の実行例では、最後の出力まで5往復のやり取りでした。
入力しないもの
個人を特定できる情報は、予行演習には要りません。次のものは入力しないでください。
- マイナンバー、口座番号、カード番号
- 取引先や家族の実名、住所
- 通帳、領収書、申告書の画像
使うサービスの設定
生成AIのサービスには、入力した内容を学習に使うかどうかを選べる設定を備えたものが多くあります。予行演習の前に、お使いのサービスの設定を確かめてください。
Prompt
調査官役を頼むプロンプト
次の文章をそのままコピーして、お使いの生成AIのチャットに貼り付けます。【税務署から伝えられたこと】と【私の事業】の各項目を埋めてから送ってください。まだ連絡を受けていない方は、【税務署から伝えられたこと】を空欄のまま使えます。
あなたは、税務署で個人事業者の税務調査を長く担当してきた調査官です。私(個人事業主)は、税務署から税務調査の連絡を受けました。調査の当日に向けて、予行演習をしてください。
【進め方】
次の4つの段階を、1段階ずつ順に進めてください。
1. 事業の概要の聞き取り
2. 帳簿と書類の確認
3. 重点的に確認する項目
4. 調査の締めくくり
・段階1は、調査の当日、調査官が事業の場所に来た場面から始めてください。
・【税務署から伝えられたこと】を前提に進めてください。空欄の項目は、一般的な個人事業者の調査を想定して補ってください。
・1つの段階の質問は3〜5問にしてください。質問を出したら、私の回答を待ってから次の段階に進んでください。
・私の回答があいまいなときは、それを何で確認できるか(書類・記録・データ)を尋ねてください。
・段階3は、私が書いた業種と数字、それまでの回答から、調査官が重点を置きそうな項目を選んでください。
・実際の調査官と同じように、丁寧な口調で淡々と進めてください。威圧的な態度や、法律で認められた範囲を超える要求はしないでください。
・法律や通達の根拠を示すときは、確かなものだけにしてください。
【最後に出してほしいもの】
段階4のあとに、次の2つを出してください。
1. 確認表:「質問」「答えるために用意する書類・記録」「書類や記録で説明できないと、どう扱われそうか」の3列の表
2. 指摘を受けそうな点:影響が大きい順に、理由と、今からできること
答え方の模範回答や言い回しは作らないでください。調査に向けて準備するのは、回答を裏付ける書類と記録です。
【税務署から伝えられたこと】
・調査の日時と場所:
・税目:
・期間(何年分か):
・確認したいと言われた帳簿・書類:
【私の事業】
・業種と事業の内容:
・開業した年:
・申告の種類(青色・白色):
・直近の年の売上(概数):
・主な経費と金額(概数):
・月ごとの売上の動き:
・家族への給与や支払い:
・仕事をする場所(自宅兼用か、事務所があるか):
・事業用と生活用の口座・カードの分け方:
・現金で受け取る売上:
・ネットのサービスやプラットフォーム経由の収入:
・消費税の申告(インボイス登録の有無も):
・帳簿のつけ方と、領収書などの保管方法:
・過去の税務調査:
・気になっていること:
使い方
- 質問は1段階ずつ出ます。答えを送ると、次の段階に進みます
- 分からない質問には、「分からない」「確かめてから答える」と書いてかまいません。その質問が、資料を探す場所になります
- 最後に出る確認表は保存しておき、「準備するのは答えより資料」の資料集めに使います
- 結果は回すたびに少しずつ変わります。予行演習の質問や指摘は、実際の調査で聞かれることの一例として使ってください
Rehearsal
実際にやってみた
上のプロンプトに架空の個人事業主の情報を入れて、Claude(Anthropic社の生成AI)で最後まで回してみました。個人事業主側の回答は筆者が作成しています。同じプロンプトでも、実行結果は毎回少しずつ変わります。
架空の個人事業主は、次のような人です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 業種 | Webデザイン(令和5年に開業) |
| 売上 | 約820万円(令和7年分) |
| 申告 | 青色申告(65万円控除)。開業した年だけ白色申告 |
| 家族への給与 | 妻に専従者給与 月8万円 |
| 仕事場 | 自宅マンション(2LDK)の1部屋。家賃の半分を経費にしている |
| お金の流れ | 口座とカードは事業と生活で兼用。現金で受け取る売上と、クラウドソーシング経由の売上がある |
| 税務署から伝えられたこと | 11月中旬に自宅で、所得税と消費税の令和5年分〜令和7年分を調べる |
詳しく見る:プロンプトの欄に入れた架空の個人事業主の情報(全文)
【税務署から伝えられたこと】
・調査の日時と場所:11月中旬の平日、午前10時から。自宅
・税目:所得税と消費税
・期間(何年分か):令和5年分から令和7年分
・確認したいと言われた帳簿・書類:帳簿、請求書、領収書、通帳、クレジットカードの明細
【私の事業】
・業種と事業の内容:Webデザイン(ホームページ制作、バナー・ロゴの制作)
・開業した年:令和5年
・申告の種類(青色・白色):令和5年分は白色、令和6年分から青色申告(65万円控除)
・直近の年の売上(概数):令和7年分で約820万円
・主な経費と金額(概数):外注費 約120万円(知人のコーダー2人)、地代家賃 約60万円(自宅マンションの家賃の半分)、車両費 約35万円(自家用車の費用の8割)、消耗品費 約40万円(パソコン・周辺機器など)、接待交際費 約25万円、通信費 約20万円、旅費交通費 約15万円
・月ごとの売上の動き:3月と12月が多い。8月が少ない
・家族への給与や支払い:妻に専従者給与 月8万円(請求書の発行、経理、SNSの更新)
・仕事をする場所(自宅兼用か、事務所があるか):自宅マンション(2LDK)の1部屋を仕事部屋にしている
・事業用と生活用の口座・カードの分け方:個人名義の普通預金1つとクレジットカード1枚を、事業と生活で兼用
・現金で受け取る売上:基本は振込。知人からの小さな仕事を現金で受け取ることがたまにある
・ネットのサービスやプラットフォーム経由の収入:クラウドソーシングサイト経由の売上が年100万円くらい
・消費税の申告(インボイス登録の有無も):令和5年10月にインボイス登録。2割特例で申告している
・帳簿のつけ方と、領収書などの保管方法:会計ソフトで記帳。領収書は紙を箱に入れて保管。一部はスマホで撮影して紙は捨てた
・過去の税務調査:なし
・気になっていること:家賃と車の按分の割合。妻への給与
自分で会計ソフトに入力して申告している、税理士のいない個人事業主によくある形にしました。どこが論点になるかは、最後の「指摘を受けそうな点」で答え合わせをします。
段階1 事業の概要の聞き取り
予行演習は、調査官が自宅に来た場面から始まりました。
調査官役
「事前にお電話でお伝えしたとおり、令和5年分から令和7年分までの所得税と消費税について、申告の内容を確認させていただきます。午前中はお仕事の内容と普段のお金の流れを伺い、午後から帳簿、請求書、領収書、通帳、クレジットカードの明細を拝見する予定です。」
続く5つの質問のうち、3つを抜粋します。
- 開業される前は、どのようなお仕事をされていましたか。令和5年の何月ごろに、どういう経緯で開業されたのかもお聞かせください。
- ご家族の構成と、お仕事を手伝っている方を教えてください。ご家族の中に、ほかにお勤めをしている方や収入のある方はいらっしゃいますか。
- お金の管理について伺います。売上が入金される口座と、生活費を出している口座・カードはどれですか。現金はどなたが管理していて、普段手元にどのくらい置いていますか。1か月の生活費はおおよそいくらでしょうか。
ほかの2問は、取引先と仕事の受け方の割合、依頼から入金までの流れでした。
回答(要約)
前の勤め先から独立し、売上の4割はその会社から。妻がパートの合間に経理を手伝っている。口座とカードは事業と生活で兼用していて、現金で受け取った仕事のお金は財布に入れて生活費に使うことが多い、と答えました。
詳しく見る:段階1のやり取りの全文
調査官役
(11月中旬の平日、午前10時。調査官がご自宅に来た場面です)
「おはようございます。〇〇税務署 個人課税部門の△△と申します。こちらが身分証明書です。本日はお時間をとっていただき、ありがとうございます。
事前にお電話でお伝えしたとおり、令和5年分から令和7年分までの所得税と消費税について、申告の内容を確認させていただきます。午前中はお仕事の内容と普段のお金の流れを伺い、午後から帳簿、請求書、領収書、通帳、クレジットカードの明細を拝見する予定です。お昼の12時から1時までは、私はいったん外に出ます。終わりは午後4時ごろを見込んでいます。途中でわからないことがあれば、いつでもおっしゃってください。
では、お仕事のことから伺います。」
- 開業される前は、どのようなお仕事をされていましたか。令和5年の何月ごろに、どういう経緯で開業されたのかもお聞かせください。
- 今の取引先について伺います。お客様は会社と個人のどちらが多いですか。直接のご依頼、知人のご紹介、クラウドソーシングサイトなど、仕事の受け方ごとのおおよその割合も教えてください。
- ご依頼を受けてから入金までの流れを教えてください。見積書や契約書は作っていますか。請求書はどなたが、どうやって作って送っていますか。外注の方には、どの段階で仕事をお願いして、どうやってお支払いしていますか。
- ご家族の構成と、お仕事を手伝っている方を教えてください。ご家族の中に、ほかにお勤めをしている方や収入のある方はいらっしゃいますか。
- お金の管理について伺います。売上が入金される口座と、生活費を出している口座・カードはどれですか。現金はどなたが管理していて、普段手元にどのくらい置いていますか。1か月の生活費はおおよそいくらでしょうか。
回答(筆者が作成)
- 開業前は、Web制作会社で5年ほどデザイナーをしていました。令和5年の4月に独立しました。元の上司から外注で仕事を回してもらえる見込みがあったのがきっかけです。
- 会社がほとんどです。いちばん大きいのが前の勤め先の制作会社で、売上の4割くらいです。次が地元の工務店です。知人の紹介や直接の依頼が4割くらい、クラウドソーシング経由が1割ちょっとです。個人のお客さんは、知人の名刺やチラシのデザインくらいです。
- 見積書は、金額が大きい案件だけメールで出しています。契約書は、前の勤め先とだけ業務委託の基本契約を結んでいて、ほかはメールのやり取りだけです。請求書は、妻が会計ソフトで作ってPDFをメールで送っています。前の勤め先には、案件がまとまったところで請求していて、年末の分は年明けにまとめて請求することが多いです。クラウドソーシングは、サイトの中で依頼から支払いまで完結します。外注は知人のコーダー2人で、デザインが決まったあとにコーディングをメールで頼んで、請求書をもらって振り込んでいます。
- 妻と小学生の子どもが1人です。妻が請求書の発行、経理、SNSの更新を手伝っています。妻は週2日、近所のスーパーでパートもしています(1日5時間くらい)。
- 売上は、個人名義の普通預金1つに入ってきます。クラウドソーシングの報酬はサイトの中にたまっていって、手数料が引かれた金額をこの口座に出金しています。生活費も同じ口座とクレジットカード1枚から出していて、毎月20万円を妻の口座に振り込んで、妻がそこから食費などを払っています。家賃とカードの支払いは私の口座からです。現金は私が管理していて、財布に2〜3万円くらいです。知人の仕事を現金でもらったときは、財布に入れて生活費に使ってしまうことが多いです。生活費は、家賃を入れて月30万円くらいだと思います。
最初の聞き取りは、あとで書類と突き合わせる材料になります。
午前中の質問は、帳簿を見る前の世間話のように聞こえます。調査官役が聞いたのは、前の勤め先との関係、家族の勤め先、口座の使い分けです。どれも、午後に帳簿や通帳と突き合わせる項目でした。記憶があいまいなところは、「確かめてからお伝えします」と答えてかまいません。
身分証明書は見せてもらえます。
調査官は身分証明書を携帯し、求められたら提示することになっています(国税通則法74条の13)。調査官役も、自分から示してから始めていました。
▶ 調査の当日、雑談のように聞こえる質問や、通帳・データの確かめられ方は、税務調査では、領収書のほかに何が確認されるかで解説しています。
段階2 帳簿と書類の確認
午後は、帳簿と通帳を見ながらの質問に変わりました。午前中の答えを、1つずつ書類で確かめる流れです。
調査官役
質問の一部を抜粋します。
- 売上は、請求書を出した日と入金された日の、どちらの日付で帳簿に入れていますか。前の勤め先の仕事で、12月中に作業が終わって年明けに請求したものは、どちらの年の売上にしていますか。
- 奥様の口座に毎月振り込んでいる20万円と、専従者給与の月8万円は、どういう関係になっていますか。
- 撮影したのはどのような経費の領収書で、画像はどこに保存していますか。その画像で、日付、金額、支払先は読み取れますか。
ほかに、インボイス登録日の前後での売上の分け方、現金の売上、クラウドソーシングの手数料と年末の残高を聞かれました。
回答(要約)
売上は請求書の日付で入れていて、前の勤め先に12月に納品した分は翌年の売上にしている。専従者給与は、令和6年分は12月にまとめて振り込み、令和7年分は生活費の振込と区別していない。撮影した領収書は写真フォルダに入れたままで、機種変更で消えたものもある、と答えました。
詳しく見る:段階2のやり取りの全文
調査官役
(午後1時。調査官が昼食から戻り、帳簿と書類を見る場面です)
「午前中はありがとうございました。午後は、帳簿と、請求書、領収書、通帳、クレジットカードの明細を、令和5年分から順に拝見します。帳簿は会計ソフトの画面でも、印刷したものでも結構です。拝見しながら伺いますので、わからないところはその場でおっしゃってください。」
- 売上の記帳について伺います。売上は、請求書を出した日と入金された日の、どちらの日付で帳簿に入れていますか。前の勤め先の仕事で、12月中に作業が終わって年明けに請求したものは、どちらの年の売上にしていますか。作業が終わった時期は、何で確認できますか。また、令和5年分の消費税は、インボイスの登録日以降の売上で計算されていると思います。登録日より前に作業が終わり、登録日以降に入金された売上は、どちらに入れていますか。
- 知人から現金で受け取った売上について伺います。午前中、財布に入れて生活費に使うことが多いと伺いました。これらの売上は帳簿に入っていますか。入っていないものがある場合、令和5年から令和7年までに、いつ、どなたから、どの仕事で、いくら受け取ったかは、何で確認できますか。
- クラウドソーシングサイトの売上について伺います。帳簿には、手数料が引かれる前の金額と、口座に出金した金額の、どちらを売上として入れていますか。各年の12月末の時点でサイトにたまっていて、まだ出金していなかった報酬は、どう扱っていますか。サイトの取引履歴や報酬の明細は、3年分を画面に出したり、ダウンロードしたりできますか。
- 通帳とクレジットカードの明細について伺います。1つの口座とカードを事業と生活で兼用されていますが、明細の1行ごとに、事業用か生活用かを何で判断して帳簿に入れていますか。奥様の口座に毎月振り込んでいる20万円と、専従者給与の月8万円は、どういう関係になっていますか。専従者給与を、いつ、どのような方法で支払っているか、何で確認できますか。生活費は月30万円くらいとのことでしたが、これは通帳やカードの明細から計算した金額ですか。
- 領収書と請求書の保管について伺います。紙の領収書は箱で保管し、一部はスマホで撮影して紙を捨てたとのことでした。撮影したのはどのような経費の領収書で、画像はどこに保存していますか。その画像で、日付、金額、支払先は読み取れますか。外注のコーダーの方からメールで届く請求書や、ネットで支払った経費の領収書は、どこにどのように保存していますか。
回答(筆者が作成)
- 売上は、請求書を出した日の日付で入れています。前の勤め先の12月の作業を年明けに請求した分は、請求した年(翌年)の売上にしています。作業が終わった日は、納品のデータをメールで送っているので、送信日で分かります。インボイスの登録は令和5年10月1日からですが、請求書の日付で分けたので、9月に作業が終わって10月に請求したものは、消費税の計算に入れています。
- 帳簿に入れたのは、令和6年の1件だけです。依頼はLINEで来るので、やり取りは残っています。金額はLINEに書いてあるものと、会って口頭で決めたものがあります。領収書は渡していません。
- 口座に出金した金額(手数料が引かれたあと)を、出金した日に売上として入れています。12月末にサイトに残っていた報酬は確かめていません。令和7年の年末は8万円くらい残っていた気がします。取引履歴は令和5年分から画面で見られて、CSVでダウンロードもできます。
- 明細を見て、仕事っぽいものを妻が選んで入れています。基準は特に決めていません。Amazonは仕事用と家の物をまとめて買うことがあって、カードの明細の金額のまま入っているものがあります。口座には売上のほかに、児童手当、友人との食事の割り勘の送金、ときどき自分の貯金口座からの振替も入っています。専従者給与は、令和6年分は12月にまとめて96万円を妻の口座に振り込みました。令和7年分は、毎月の20万円を生活費と給与を兼ねたものということにしていて、給与としての振込はしていません。20万円のどこが給与かは決めていません。生活費の月30万円は、感覚で言ったもので、明細から計算したものではありません。カードの明細はネットで1年分しか見られないので、令和5年分はもう見られません。
- 撮影したのは、コンビニや文具店のレシートと、打ち合わせで使ったカフェのレシートが中心です。画像はスマホの写真フォルダにそのまま入っていて、フォルダ分けはしていません。令和6年に機種変更したので、令和5年に撮った分は消えているかもしれません。ピンぼけで読みにくいものもあります。外注の方の請求書はメールに残っています。ネットで払ったものは、Amazonの注文履歴やメールで見られます。
帳簿と書類を残しておく責任は、本人にあります。
帳簿と書類の保存は、青色申告でも白色申告でも法律で決められています(所得税法148条・232条)。ネット銀行やクレジットカードの明細は、画面で見られる期間が限られています。連絡を受けたら、調査の対象になる年分の明細をすぐにダウンロードしておいてください。
スマホで撮って紙を捨てた領収書には、保存の要件があります。
紙の領収書を撮影して紙を捨てるには、電子帳簿保存法のスキャナ保存の要件を満たす必要があります(電子帳簿保存法4条3項)。要件を満たした画像は紙の領収書の代わりになり、満たしていない場合は紙のほうを残しておく必要があります。その経費は、カードの明細や通帳など、ほかの記録と合わせて説明することになります。
段階3 重点的に確認する項目
午後2時半ごろ、調査官役は確認する点を5つに絞りました。
調査官役
「ここまで伺ったお話と拝見した書類をもとに、次の5つの点をもう少し詳しく伺います。売上を計上する時期、帳簿に入っていない売上、口座のお金の動き、奥様への給与、家賃と車の費用の分け方です。今日この場でお答えするのが難しいものや、用意が難しいものは、そうおっしゃってください。後日ご用意いただく形でも結構です。」
質問の一部を抜粋します。
- 令和6年と7年の12月31日時点で、帳簿の普通預金の残高と通帳の残高は一致していますか。口座やカードから出ていった生活用の支払いは、帳簿の上ではどう扱っていますか。
- 令和5年分は白色申告でした。奥様については、事業専従者控除と配偶者控除のどちらで申告されましたか。
- 家賃は半分を経費にされています。マンションの賃貸借契約書と、間取りのわかるものを拝見できますか。差し支えなければ、仕事部屋を拝見できますか。
回答(要約)
帳簿には仕事の入出金しか入れていないので、残高は通帳と合っていない。令和5年分は妻を配偶者控除に入れた。住まいは約60㎡で仕事部屋は約10㎡、子どもの本棚も置いている。車は休日に家族が使い、走った記録はない、と答えました。
詳しく見る:段階3のやり取りの全文
調査官役
(午後2時半ごろ。調査官が帳簿と書類をひととおり見終わり、質問を続ける場面です)
「ありがとうございました。ここまで伺ったお話と拝見した書類をもとに、次の5つの点をもう少し詳しく伺います。売上を計上する時期、帳簿に入っていない売上、口座のお金の動き、奥様への給与、家賃と車の費用の分け方です。今日この場でお答えするのが難しいものや、用意が難しいものは、そうおっしゃってください。後日ご用意いただく形でも結構です。」
- 前の勤め先からのお仕事の、年末の売上について伺います。令和5年・6年・7年の各年の12月中に納品して翌年に請求したものは、案件ごとに、納品メールの送信日、請求書の日付、金額を並べた一覧にできますか。納品のあと、先方から検収や修正完了の連絡が来る場合、それもメールで残っていますか。前の勤め先との業務委託の基本契約書では、検収、請求、支払いの時期をどう定めていますか。契約書を拝見できますか。
- 帳簿に入っていない売上について伺います。クラウドソーシングサイトの取引履歴を、令和5年分から7年分まで画面に出していただけますか。年ごとに、手数料が引かれる前の報酬の額、手数料の額、12月末の時点でサイトに残っていた額を確認させてください。報酬が確定した日は、履歴のどの項目でわかりますか。また、知人から現金で受け取ったお仕事は、LINEのやり取りから、日付、相手の方、仕事の内容、金額を書き出せますか。口頭で金額を決めたものは、その金額を何で確認できますか。
- 口座のお金の動きについて伺います。通帳の入金のうち売上以外のもの、つまり児童手当、ご友人からの割り勘の送金、ご自身の貯金口座からの振替は、1件ずつ何で確認できますか。貯金口座の通帳も拝見できますか。また、令和6年と7年の12月31日時点で、帳簿の普通預金の残高と通帳の残高は一致していますか。口座やカードから出ていった生活用の支払いは、帳簿の上ではどう扱っていますか。
- 奥様への給与について伺います。青色事業専従者給与に関する届出書は、いつ提出されましたか。その届出書に、給与の金額と支給の時期をどう書きましたか。控えはありますか。令和6年分の96万円を12月にまとめて支払った理由を教えてください。令和7年分は、毎月の20万円のうち給与にあたる金額と、支払った日を何で確認できますか。奥様がこちらのお仕事をした日と時間、スーパーのパートに出た日と時間は、それぞれ何で確認できますか。なお、令和5年分は白色申告でした。奥様については、事業専従者控除と配偶者控除のどちらで申告されましたか。
- 家賃と車の費用について伺います。家賃は半分を経費にされています。マンションの賃貸借契約書と、間取りのわかるものを拝見できますか。契約の名義、住まい全体の広さ、仕事部屋の広さを確認させてください。仕事部屋は、お仕事以外でご家族が使うことはありますか。差し支えなければ、仕事部屋を拝見できますか。車については、車両費の約35万円にどのような費用が入っているか教えてください。車の名義はどなたですか。お仕事で車を使った日と行き先は、何で確認できますか。ご家族がお仕事以外の用事(通勤、送迎、買い物など)で車を使うことはありますか。
回答(筆者が作成)
- 一覧は作れます。納品のあと、先方の担当者から「確認しました」というメールが来ることが多く、それも残っています。基本契約書には、月末締めで翌月末払いと書いてあったと思います。契約書は見ていただけます。
- サイトの取引履歴は出せます。令和7年分は、手数料が引かれる前の報酬が約125万円、手数料が約25万円、年末にサイトに残っていたのが約8万円でした。令和5年分と6年分はまだ見ていません。報酬が確定した日は、履歴の「検収完了日」で分かります。現金の仕事は、LINEを見ると令和5年に2件、令和6年に3件(うち1件は帳簿に入れた分)、令和7年に4件で、合わせて25万円くらいです。口頭で決めた分は、金額を確認できるものがありません。
- 児童手当は自治体の名前で入金されています。割り勘は、友人の名前で振込かPayPayで入っています。貯金口座もネット銀行なので、明細を見ていただけます。帳簿には仕事に関係する入出金しか入れていないので、帳簿の残高と通帳の残高は合っていないと思います。生活用の支払いは、帳簿には入れていません。
- 届出書は、令和6年の3月に、青色申告の承認申請書と一緒に紙で出したと思います。控えは見当たりません。金額は「月8万円・毎月」と書いたと思います。令和6年分は、毎月払うのを忘れていて、年末にまとめて振り込みました。令和7年分の20万円の振込の記録は残っていますが、どこが給与かは決めていません。妻の作業は、会計ソフトの入力履歴、請求書の発行日、SNSの投稿日時で分かります。パートは火曜と金曜の9時から14時で、給与明細とシフト表は妻が持っています。令和5年分は、妻を配偶者控除に入れて申告しました。事業専従者控除は使っていません。
- 賃貸借契約書と間取り図はあります。名義は私です。2LDKで約60㎡、仕事部屋の洋室は約10㎡です。半分にしたのは、リビングでも作業をするし、オンラインの打ち合わせもリビングですることがあるからです。仕事部屋には子どもの本棚も置いています。仕事部屋は見ていただいて大丈夫です。車両費の内訳は、ガソリン約8万円、マンションの駐車場約14万円、保険約6万円、自動車税約4万円、車検・整備約3万円で、全部の8割を入れています。車は開業前に買ったもので、減価償却費は入れていません。名義は私です。乗った日や距離の記録はありませんが、Googleカレンダーの打ち合わせの予定とメールで、行き先は分かると思います。前の勤め先と工務店へは車で行き、都心で打ち合わせるときは電車です。休日は家族の買い物や外出、子どもの習い事の送迎に使っています。
その場で答えられないことは、後日でかまいません。
調査官役も「後日ご用意いただく形でも結構です」と言っていました。あいまいな記憶で答えると、あとで書類と食い違ったときに説明が必要になります。確かめてから答えるほうが、結果として話が早く進みます。
帳簿の残高が通帳と合わないと、65万円控除の前提が問われます。
口座を事業と生活で兼用していても、生活費の出入りを「事業主貸」「事業主借」で帳簿に入れていれば、残高は通帳と合います。事業の入出金だけを拾って入れていると残高がずれ、正しい簿記で帳簿をつけているか(65万円控除の要件:租税特別措置法25条の2)が確認されます。
段階4 調査の締めくくり
最後に調査官役は、引き続き確認する点と、このあとの流れを説明しました。
調査官役
「今日の時点では、申告を直していただくかどうかも、直す場合の金額も決まっていません。後日ご用意いただく書類を拝見したうえで、署で検討します。」
続けて聞かれた質問の一部を抜粋します。
- 令和5年の1月から3月までに前のお勤め先から受け取った給与は、令和5年分の申告に入っていますか。
- 令和6年の1件だけを帳簿に入れて、ほかの分を入れなかったのは、どういう理由からですか。(中略)金額を確かめるために、相手の方にお尋ねすることがあります。
ほかに、妻を配偶者控除に入れていないか、家賃と車の割合を何で裏付けるか、後日用意する書類とその期限を確かめられました。
回答(要約)
現金の売上は、少額で知人の手伝いのような感覚だったので、売上だと意識していなかった、と答えました。最後に「修正申告を出すかどうかは、いつまでに決めればいいですか」と尋ねています。
調査官役
「出すかどうかを、今日決めていただく必要はありません。ご用意いただいた書類を拝見して署で検討したあと、結果をご説明します。」
このあと、修正申告は更正までならいつでも出せること、修正申告でも更正でも原則として過少申告加算税と延滞税がかかることが説明されました。
詳しく見る:段階4のやり取りの全文
調査官役
(午後3時半ごろ。調査官が確認を終え、その日の調査をまとめる場面です)
「長い時間ありがとうございました。本日の確認はここまでとします。
本日伺ったお話と拝見した書類から、引き続き確認する点は次のとおりです。今日の時点では、申告を直していただくかどうかも、直す場合の金額も決まっていません。後日ご用意いただく書類を拝見したうえで、署で検討します。
- 年末に納品した売上をどの年に計上するか。インボイス登録日の前後で売上をどう分けるか
- クラウドソーシングの報酬(手数料が引かれる前の額と、年末にサイトに残っていた額)
- 帳簿に入っていない現金の売上
- 奥様への給与(届出書の内容と、実際の支払い方)
- 家賃と車の費用のうち、経費にする割合
- 事業用と家庭用をまとめて払ったもの(Amazonなど)と、紙を処分した領収書
青色申告の承認申請書と専従者給与の届出書は、提出された日と、届出書にある金額・支給の時期を署の記録で確認します。
検討の結果、申告を直していただく必要があると判断した場合は、その内容を金額と理由も含めてご説明します(国税通則法74条の11第2項)。その際、修正申告をお勧めすることがあります。修正申告を出された場合、その内容について不服申立てはできませんが、更正の請求はできます。このことを書いた書面もお渡しします(同条第3項)。
最後に、いくつか伺います。」
- 申告に入っていない収入がないか伺います。令和5年の1月から3月までに前のお勤め先から受け取った給与は、令和5年分の申告に入っていますか。源泉徴収票はお手元にありますか。このほかに、令和5年から7年までに、Webデザインのお仕事以外で受け取った収入はありますか。
- 奥様について伺います。令和6年分と7年分の申告で、奥様を配偶者控除や配偶者特別控除の対象にしていますか。令和6年分の96万円は、帳簿に毎月8万円ずつ(未払いとして)入れていますか。それとも12月にまとめて入れていますか。令和7年分の給与は、帳簿のどの日付に、いくらで入れていますか。
- 帳簿に入っていない現金の売上について伺います。令和6年の1件だけを帳簿に入れて、ほかの分を入れなかったのは、どういう理由からですか。口頭で金額を決めたものは、相手の方のお名前、お仕事の内容、受け取った時期を書き出せますか。金額を確かめるために、相手の方にお尋ねすることがあります。
- 家賃と車の割合について伺います。リビングでお仕事をする時間や、オンラインの打ち合わせの回数は、何で確認できますか(打ち合わせに使うツールの履歴、カレンダーなど)。前の勤め先と工務店へ車で行くのは、月に何回くらいですか。その回数は、Googleカレンダーとメールから書き出せますか。マンションの駐車場は、住まいの賃貸借契約とは別に契約していますか。
- 後日ご用意いただきたいものを確認します。次のものは、いつごろまでにご用意いただけますか。ご用意が難しいものがあれば、おっしゃってください。
書類をお預かりする場合は、預り証をお渡しします。書類がそろうころに、次の日程をお電話でご相談します。
回答(筆者が作成)
- 令和5年1月から3月の給与は、源泉徴収票があって、令和5年分の申告に入れています。ほかに収入はありません。
- 令和6年分と7年分は、妻を配偶者控除には入れていません。令和6年分の96万円は、帳簿には12月にまとめて入れました。令和7年分は、帳簿には毎月末に8万円ずつ入れています。支払いは、毎月の20万円の振込で済んでいるつもりでした。
- 令和6年の1件は、相手の方が領収書がほしいと言ったので、妻が帳簿にも入れました。ほかは、少額で知人の手伝いのような感覚だったので、売上だと意識していませんでした。相手の名前、仕事の内容、時期は、LINEから書き出せます。
- リビングでの作業とオンラインの打ち合わせは、Googleカレンダーの予定とZoomの履歴で分かると思います。車で行くのは、前の勤め先が月2〜3回、工務店が月1回くらいで、カレンダーとメールから書き出せます。駐車場はマンションの駐車場で、住まいとは別の契約です(月1万2千円くらい)。
- 現金の仕事の一覧、クラウドソーシングの履歴、契約書と明細は、1週間くらいで用意できます。Amazonの仕分けと妻の作業の記録は、2週間くらいほしいです。カード会社には問い合わせてみます。修正申告を出すかどうかは、いつまでに決めればいいですか。
調査官役(続き)
「ありがとうございます。伺ったことを確認します。
- 令和5年1月から3月までの給与は、源泉徴収票があり、令和5年分の申告に入っている。ほかの収入はない。
- 令和6年分と7年分では、奥様を配偶者控除の対象にしていない。令和6年分の96万円は、12月にまとめて帳簿に入れた。令和7年分は、毎月末に8万円ずつ帳簿に入れている。支払いは、毎月20万円の振込で済んでいると考えていた。
- 現金の売上のうち帳簿に入れたのは、領収書を求められた1件。ほかの分は、相手の方、仕事の内容、時期をLINEから書き出せる。
- リビングでのお仕事とオンラインの打ち合わせは、Googleカレンダーの予定とZoomの履歴で確認できる。車で行くのは、前のお勤め先が月2〜3回、工務店が月1回くらい。駐車場はマンションの駐車場で、住まいとは別の契約。
後日ご用意いただくものの期限です。現金のお仕事の一覧、クラウドソーシングの取引履歴、契約書と明細は1週間後ごろまで、Amazonの仕分けと奥様のお仕事の記録は2週間後ごろまでにお願いします。カード会社に問い合わせた結果も、わかった時点で教えてください。書類がそろうころに、次の日程をお電話でご相談します。
修正申告の時期についてお答えします。出すかどうかを、今日決めていただく必要はありません。ご用意いただいた書類を拝見して署で検討したあと、結果をご説明します。直していただく点がない場合は、その旨を書面でお知らせします(国税通則法74条の11第1項)。直していただく点がある場合は、そのときに修正申告をお勧めします。いつまでにお考えいただきたいかも、そのときにお伝えします。修正申告を出されない場合は、署が更正という処分で申告を直します(同法24条)。更正の内容に納得がいかない場合は、不服申立てができます。
なお、修正申告は、署が更正をするまでなら、いつでも出すことができます(同法19条1項)。修正申告の場合も更正の場合も、増えた税額のほかに、原則として過少申告加算税(同法65条)と延滞税(同法60条)がかかります。所得税の申告が変わると、住民税と個人事業税も、あとから自治体で計算し直されます。
本日は長い時間ありがとうございました。これで失礼します。」
「なぜ帳簿に入れなかったか」は、金額が小さくても聞かれる質問です。
帳簿に入れなかった理由がうっかりなのか、意図して除いたのかで、かかる加算税が変わります。意図して隠したと判断されると、重加算税がかかります(国税通則法68条)。理由を聞かれたら、事実をそのまま答えてください。
調査の通知のあとに出す修正申告にも、加算税はかかります。
過少申告加算税は、調査の通知を受ける前に自分で修正申告を出せばかかりません。通知を受けたあとでも、調査が始まる前など、更正を予知する前に出せば割合が軽くなります(国税通則法65条)。調査が始まったあとの修正申告は、原則として10%(一定額を超える部分は15%)です。予行演習で誤りに気づいたら、調査の日より前に修正申告を検討してください。
調査官役が挙げた「指摘を受けそうな点」
調査官役は最後に、確認表と「指摘を受けそうな点」を出しました。指摘は、影響の大きい順に8項目です。
| 順 | 項目 | 調査官役が挙げた理由(要約) |
|---|---|---|
| 1 | 妻への専従者給与(2年分で192万円) | 届出書の「毎月」と違うまとめ払い、生活費との区別がない、パートとの掛け持ち、届出書の控えがない |
| 2 | 家賃と車の割合 | 仕事部屋は住まいの約17%。車は休日に家族が使い、走行の記録がない |
| 3 | 年末に納品した売上の時期 | 12月に納品した分を、翌年の請求日で売上にしている |
| 4 | 帳簿に入っていない現金の売上 | 3年で約25万円。入れなかった理由も確認された |
| 5 | クラウドソーシングの売上 | 手数料を引いた額で売上にしていて、消費税の売上が少ない。年末にサイトに残っていた報酬もある |
| 6 | 口座とカードの兼用 | 売上以外の入金、Amazonのまとめ買い、帳簿と通帳の残高の差 |
| 7 | 紙を捨てた領収書 | 画像が読めないもの、機種変更で消えたものがある |
| 8 | 消耗品費・通信費・交際費 | 10万円以上の備品、家族の通信利用、交際費の相手と目的 |
架空の事例に盛り込んだつまずきは、すべてこの8項目のどこかに入っていました。調査官役は、利用者に有利な点も挙げています。インボイス登録前の9月に納品した分を消費税の計算に入れているのは納めすぎ、開業前に買った車の減価償却費が入っていない、という点です。
一方で、条件を補って言い切っているところもありました。届出の期限を過ぎた場合の扱いや、年末の売上を正しい年に移したときの増減などです。全文の最後に、筆者の補足を付けています。
詳しく見る:確認表(19行)と「指摘を受けそうな点」の全文、筆者の補足
確認表
| 質問 | 答えるために用意する書類・記録 | 書類や記録で説明できないと、どう扱われそうか |
|---|---|---|
| 取引先ごとの売上と、仕事の受け方の割合 | 取引先別の売上の集計(会計ソフト)、請求書の控え、通帳の入金記録 | 請求書・入金と申告の売上が合わない部分は、売上の漏れとして扱われやすい |
| 見積・契約・請求はどのように行っているか | 見積書のメール、前の勤め先との業務委託基本契約書、請求書のPDF | 案件の金額や時期を確かめられないと、取引先に直接確認されることがある |
| 外注先にどう発注し、どう支払っているか | 外注先の請求書(メール)、発注のメール、振込の記録 | 業務の内容と支払いが結びつかない分は、外注費として認められないことがある |
| 年末に納品して翌年に請求した売上は、どの年の売上にしているか | 各年12月の納品の一覧(納品メールの送信日、「確認しました」のメールの日付、請求書の日付、金額)、基本契約書 | 納品した年の売上に直される。令和7年12月の納品分は、令和7年分の売上に加わる |
| インボイス登録日(令和5年10月1日)の前後で、売上をどう分けたか | 令和5年9〜10月の納品メールと請求書 | 登録日より前に納品した分は令和5年分の消費税の対象から外れる。登録日以後に納品して翌年に請求した分は、令和5年分の消費税の対象に加わる |
| クラウドソーシングの売上の金額と時期をどう決めたか | サイトの取引履歴(CSV、令和5〜7年)、年ごとの手数料の明細、各年12月末のサイトの残高 | 手数料が引かれる前の報酬を「検収完了日」で売上にし、手数料は経費に分ける形で計算し直される |
| 帳簿に入っていない現金の売上は、いつ、誰から、いくらか | LINEのやり取り、書き出した一覧(日付・相手・仕事の内容・金額)、帳簿に入れた1件の領収書の控え | 口頭で決めた分は、相手の方への確認や、ほかの仕事の単価からの推計で金額が決められる |
| 現金の売上を帳簿に入れなかった理由 | 帳簿に入れた1件と、入れなかった分の違いがわかる記録(LINE、領収書の控え) | 意図的に除いたと判断されると、重加算税の対象になることがある |
| 明細の1行ごとに、事業用か生活用かをどう決めたか | 区分を書き込んだ通帳・カードの明細、Amazonの注文履歴(注文ごとの品目) | 事業用と示せない支払いや、家庭用が混ざった注文の家庭用の分は、経費から外れる |
| 売上以外の入金(児童手当、割り勘、貯金口座からの振替)は何か | 児童手当の通知、PayPayの履歴・友人とのやり取り、貯金口座の明細 | 出どころを示せない入金は、売上の入金ではないかと確認される |
| 帳簿の普通預金の残高と通帳の残高の差は何か | 会計ソフトの普通預金の元帳、通帳、差の内訳 | 差の理由を説明できないと、記帳全体の正確さ(65万円控除の前提)が確認される |
| 令和5年分のカード払いの経費は何か | カード会社が再発行する明細、口座の引落しの記録 | 明細も領収書もない支払いは、経費として説明しにくくなる |
| 紙を捨てた領収書や、メール・ネットで受け取った請求書・領収書は何で確認できるか | 日付・金額・支払先が読めるスマホの画像、機種変更前のバックアップ、カード明細・通帳の該当する行、メールとAmazonの注文履歴 | 読み取れず、ほかの記録でも裏付けられない分は、経費から外れることがある |
| 青色申告の承認申請書と専従者給与の届出書を、いつ、どんな内容で出したか | 届出書の控え(見当たらないため、署の記録の確認を待つ) | 令和6年3月15日を過ぎていれば、令和6年分は白色申告として計算し直され、65万円控除と専従者給与が認められない |
| 令和6年分の96万円を12月にまとめて払った理由 | 振込の記録、帳簿 | 届出書の「毎月」と違う払い方として、経費に認められないことがある |
| 令和7年分の給与の金額と、支払った日 | 毎月20万円の振込の記録、帳簿 | 給与として払った額と日を示せないと、令和7年分の96万円は経費として認められないことがある |
| 奥様がこちらのお仕事をした日と時間、パートに出た日と時間 | 会計ソフトの入力履歴、請求書の発行日、SNSの投稿日時、パートのシフト表と給与明細 | 事業に専ら従事していた期間が年6か月を超えると示せないと、専従者給与そのものが認められない |
| 家賃を半分にした根拠 | 賃貸借契約書、間取り図(全体約60㎡・仕事部屋約10㎡)、Zoomの履歴、Googleカレンダー | 面積の割合(約17%)を基本に、リビングでのお仕事を記録で示せた分だけ上乗せする形になりやすい |
| 車の費用を8割にした根拠 | 費用の内訳の領収書、駐車場の契約書、お仕事で車を使った日と行き先の一覧(カレンダー・メールから)、車検の記録(走行距離) | お仕事で使った日数や距離から割合を出し直され、8割より下がる |
指摘を受けそうな点
金額は、伺った概数から出した目安です。所得税が増えると、住民税と個人事業税もあとから増えます。
(1) 奥様への専従者給与(令和6年分・7年分で計192万円)
理由
- 専従者給与が経費になるのは、届出書に書いた方法と金額のとおりに実際に払い、その額がお仕事の対価として相当な場合に限られます(所得税法57条1項)。令和6年分は「毎月」と届け出たのに、12月にまとめて払っています。令和7年分は生活費の振込と区別がなく、給与として払った額と日が決まっていません。
- 専従者と認められるには、事業に専ら従事した期間が年6か月を超えている必要があります。ほかに仕事を持つ人でも、その仕事の時間が短く、事業のお仕事が妨げられていなければ、専従者になれます(所得税法施行令165条)。パートと事業のお仕事の時間を記録で示せないと、この点も確認されます。
- 青色申告の承認申請書と専従者給与の届出書は、令和6年分から使うには、令和6年3月15日までに提出する必要がありました(所得税法144条、57条2項)。15日を過ぎていた場合、令和6年分は白色申告として計算し直されます。そうなると、65万円控除も専従者給与の96万円も認められません。
今からできること
- 提出日は、調査官が署の記録で確認します。結果を聞いたら、提出日と、届出書に書いた金額・支給の時期を控えておきます。
- 奥様のお仕事の記録(会計ソフトの入力履歴、請求書の発行日、SNSの投稿日時)を月ごとに書き出します。パートのシフト表と同じ表に並べておきます。
- 令和7年分の振込の記録は、そのまま出します。当時の給与明細を後から作るなど、支払いの形を後から整えることはしません。事実と違う書類は、仮装と扱われるおそれがあります。
- 令和8年分からは、毎月、届出書の金額を生活費とは別に振り込み、給与明細を残します。
(2) 家賃と車の割合(経費にしているのは年約95万円)
理由
- 住まいや自家用車の費用は、お仕事に必要な部分をはっきり分けられる場合に限って経費になります(所得税法45条1項、所得税法施行令96条)。
- 家賃:仕事部屋は約10㎡で、住まい全体(約60㎡)の約17%です。リビングでのお仕事を足しても、半分という割合を記録で示すのは難しいと考えられます。仕事部屋には子どもの本棚も置いています。仮に割合が約17%まで下がると、経費は年約40万円減ります。
- 車:お仕事で使うのは月3〜4回で、休日は家族が使っています。走った日や距離の記録もありません。8割という割合は下げられる見込みが高く、駐車場代・保険・自動車税も同じ割合で見直されます。
- 3年分を合わせると、(1)に近い金額になります。
今からできること
- 間取り図から、仕事部屋の面積の割合を出します。リビングでお仕事をした時間と回数を、Zoomの履歴とGoogleカレンダーから年ごとに数えます。
- 令和5〜7年のカレンダーとメールから、車でお仕事に行った日と行き先を一覧にし、地図で往復の距離を出します。車検や点検の記録にある走行距離から年間の走行距離を出し、そのうちお仕事で走った距離の割合を計算します。
- 開業前に買った車も、お仕事に使い始めた年から、お仕事で使う割合に応じて減価償却費を経費にできます。今は入っていません。購入時の契約書(価格、購入日、新車か中古か)を用意し、税額が減る方向の点として伝えます。
(3) 年末に納品した売上の計上時期(影響の大きさは令和7年12月の納品額しだい)
理由
- 請負の収入は、請求書の日付ではなく、作ったものを引き渡した日の年の売上になります。引き渡すものがない仕事は、仕事を終えた日の年の売上です(所得税法36条、所得税基本通達36-8)。消費税も同じ考え方です。
- 各年の12月に納品した分を翌年の売上にしているため、直すと各年の売上がずれます。令和7年分は、令和7年12月に納品した分の売上がそのまま増えます。前の勤め先は売上の4割を占めるため、金額が大きくなりやすい項目です。
- 令和5年分の消費税は、登録日(10月1日)より前に納品した分を含めない計算になります。9月に納品して10月に請求した分を入れているので、この点は納めすぎの方向です。
今からできること
- 令和5〜7年の各年12月の納品と、令和5年9〜10月の納品について一覧を作ります。項目は、納品メールの送信日、「確認しました」のメールの日付、請求書の日付、金額、帳簿に入れた年です。
- 工務店などほかの取引先でも、年末に納品して年明けに請求したものがないか確認します。
- 基本契約書で、検収と請求についての定めを確認します。
(4) 帳簿に入っていない現金の売上(3年で約25万円から、帳簿に入れた1件を除いた額)
理由
- 金額は小さいものの、帳簿に入れなかった理由が確認されています。領収書を求められた1件だけを帳簿に入れたことも、記録に残ります。
- 意図的に除いたと判断されると、その分の税額に重加算税がかかることがあります(国税通則法68条)。青色申告の承認の取消しが検討されることもあります(所得税法150条)。
- 口頭で金額を決めた分は、相手の方への確認や推計で金額が決められます。
今からできること
- LINEから全件を書き出します(日付、相手の方、仕事の内容、金額、受け取り方)。口頭で決めた分は、覚えている範囲で金額を書き、裏付けの記録がないことがわかるようにしておきます。
- これからは、現金で受け取った売上も1件ずつ帳簿に入れ、領収書の控えを残します。
(5) クラウドソーシングの売上の金額と時期
理由
- 売上は、手数料が引かれる前の報酬を「検収完了日」で帳簿に入れ、手数料は経費に分けるのが基本です。所得税では、手数料の分は売上と経費で差し引きゼロになります。一方、消費税は2割特例で「売上の消費税の2割」を納める計算です。手数料の分だけ売上が増え、税額も増えます(令和7年分の手数料は約25万円)。
- 12月末にサイトに残っていた報酬のうち、検収が終わっていた分は、その年の売上です。年ごとの残高の差だけ、各年の所得が変わります。
今からできること
- 令和5〜7年の取引履歴をCSVで出し、年ごとに集計します。項目は、手数料を引く前の報酬、手数料、12月末の残高(検収が終わっていて出金していない分)です。
- これからは、報酬と手数料を分け、検収完了日で帳簿に入れます。
(6) 口座とカードの兼用(入金の出どころ、Amazon、帳簿と通帳の差、令和5年のカード明細)
理由
- 売上以外の入金は、出どころを示せないと、売上の入金ではないかと確認されます。
- Amazonで仕事用と家庭用をまとめて買った注文は、家庭用の分が経費から外れます。
- 帳簿の普通預金の残高が通帳と合っていないため、記帳が正確かどうか(65万円控除の前提)が確認されます。
- 令和5年分はカード明細が手元になく、カード払いの経費の裏付けが弱くなっています。
今からできること
- 通帳の入金を1行ずつ、売上(どの請求書の入金か)、児童手当、割り勘、貯金口座からの振替に分けます。割り勘はPayPayの履歴やメッセージと、振替は貯金口座の明細と突き合わせます。
- Amazonの注文を1件ずつ事業用と家庭用に分け、帳簿に入っている金額のうち家庭用の分を出します。
- カード会社に、令和5年分の明細を再発行できるか問い合わせます。
- 帳簿と通帳の差の内訳を出します。
(7) 紙を捨てた領収書と、データで受け取った書類
理由
- 撮影して紙を捨てた領収書には、画像が読めないものや、機種変更で消えたものがあります。ほかの記録で裏付けられない分は、経費から外れることがあります。
- 消費税は2割特例で計算しているため、経費の領収書がなくても消費税の額は変わりません。影響が出るのは所得税です。
- メールやネットで受け取った請求書・領収書(外注先の請求書、Amazonの領収書など)は、データのまま保存することが求められています(電子帳簿保存法7条)。
今からできること
- スマホの写真から領収書の画像を探し、年ごとのフォルダに分けます。機種変更前の写真がクラウド(iCloudやGoogleフォト)に残っていないかも確認します。
- 画像が読めないものや画像がないものは、カード明細や通帳の同じ支払いと突き合わせて一覧にします。
- 外注先の請求書のメールとAmazonの領収書を、年ごとのフォルダにPDFで保存します。
(8) 当日の質問には出なかったが、帳簿を見て確認されそうな点
理由
- 消耗品費(約40万円):1つ10万円以上のパソコンなどは、原則として買った年に一度に経費にはできません。令和6年分・7年分(青色)は、30万円未満のものを一度に経費にできる特例があります(租税特別措置法28条の2)。令和5年分(白色)はこの特例を使えません。20万円未満のものは3年で均等に、20万円以上のものは減価償却で経費にします。
- 通信費(約20万円):スマホやネット回線を家族も使っていれば、経費にする割合が確認されます。
- 接待交際費(約25万円):相手の方と目的が確認されます。
今からできること
- 10万円以上で買ったものを、購入日、金額、帳簿に入れた科目と一緒に一覧にします。
- 通信の契約(名義、回線の数、家族の利用)を確認します。交際費の相手と目的は、カレンダーやLINEから書き出します。
筆者の補足
調査官役の出力は、上にそのまま載せています。そのうえで、読むときに気をつけてほしい点を挙げます。
- 青色申告の承認申請と専従者給与の届出は、別々に確かめます。令和6年分から青色申告をするための承認申請の期限は、令和6年3月15日です(所得税法144条)。これに間に合っていなければ令和6年分は白色申告になり、65万円控除と青色事業専従者給与の両方に影響します。専従者給与の届出の期限は原則として同じ3月15日で、新たに専従者がいることになった場合はその日から2か月以内です(同法57条2項)。届出だけが遅れた場合に影響するのは、専従者給与の経費です。
- 年末の売上を正しい年に移すときは、前の年から入っていた分も外します。12月の納品分を翌年の売上にしていた場合、令和7年分は「令和7年12月の納品分を足し、令和6年12月の納品分を引く」計算になります。税額が増える年は修正申告、減る年は更正の請求(国税通則法23条)で直します。
- 家賃と車の「年約95万円」は、プロンプトに入れた条件の額です。家賃(家賃の半分で約60万円)と車(費用の8割で約35万円)を足した額です。段階3で筆者が答えた車の費用の内訳は合計約35万円で、この条件とずれています。「年約40万円減」は、年約120万円の家賃を半分から約6分の1にした場合の差です。
- 専従者給与の要件は、届出書に書いた方法で、書いた金額の範囲内で払うことです(所得税法57条1項)。あわせて、仕事の内容に照らして相当な額かどうかが確かめられます。
- 10万円以上20万円未満の資産は、3年で均等に経費にする一括償却と、通常の減価償却から選べます(所得税法施行令139条)。令和6年分・7年分の青色申告の30万円未満の特例には、年間300万円までの上限があります(租税特別措置法28条の2)。どの年の経費になるかは、事業に使い始めた日で判定します。
- メールやネットで受け取った請求書・領収書の保存は、年で扱いが違います。令和5年12月31日までの取引は、出力した紙での保存も認める宥恕措置がありました。令和6年1月1日以後の取引はデータでの保存が原則で、相当の理由があるときの猶予措置を使う場合も、データのダウンロードと、出力した書面の提示・提出の求めに応じられるようにします(電子帳簿保存法7条)。
- 住民税と個人事業税は、所得税の修正に合わせて、それぞれの計算で直されます。個人事業税は、青色申告特別控除がなく、事業主控除(年290万円)を引いて計算します。
用意するのは、当時からある記録と、それを整理した一覧です。
調査官役は専従者給与について、「当時の給与明細を後から作るなど、支払いの形を後から整えることはしません。事実と違う書類は、仮装と扱われるおそれがあります。」と書いています。足りない書類を後から整えたくなる場面ですが、事実と違う書類や、当時作ったように見せかけた書類は、仮装と判断されれば重加算税の対象になります(国税通則法68条)。準備するのは、通帳、メール、カレンダー、入力履歴など当時からある記録と、カード会社などから再発行を受けた明細です。それを、作成日と根拠を書いた日付と金額の一覧に整理します。
税理士なら一緒に確認すること
調査官役の指摘は、税額が増える方向が中心でした。税理士と一緒に見直すときは、税額が減る方向の点も確かめます。今回の調査官役が触れなかったものを3つ挙げます。
| 確認すること | 内容 |
|---|---|
| 白色申告の事業専従者控除 | 青色申告の承認申請が期限に間に合っていなかった場合でも、白色申告の事業専従者控除(配偶者は最高86万円)を使える余地があります(所得税法57条3項)。確定申告書への記載が要件ですが(同条5項)、記載がなくても、やむを得ない事情があると税務署長が認めれば、適用を受けられることがあります(同条6項) |
| 妻の配偶者控除と、妻の側の税金 | 事業に専ら従事していないとして専従者給与が認められなかった場合、妻は配偶者控除や配偶者特別控除の対象になりえます(所得税法2条1項33号・83条)。妻が受け取った給与も妻の所得から外れるので、妻の所得税と住民税も計算し直しになります(同法56条) |
| 車の減価償却費の計算 | 開業前に買った車を事業に使い始めた場合、使い始めた時点の未償却残額は、それまでの期間の減価を差し引いて計算します(所得税法施行令85条) |
調査の結果について説明を受けるときには、こうした点も合わせて確認してください。
もう1行足すなら
今回の予行演習では入れていませんが、プロンプトの【進め方】に次の1行を足すこともできます。
・私に有利な誤り(入れ忘れた経費や控除など)があれば、それも挙げてください。
Documents
準備するのは答えより資料
調査の当日に必要なのは、上手な答え方より、答えを裏付ける資料です。調査では、答えた内容を帳簿や書類で確かめます。予行演習でも、調査官役の質問の多くは「何で確認できますか」で終わっていました。
予行演習で出た確認表をもとに、調査の前に揃える資料をまとめました。
| 資料 | 確かめられること | 用意のしかた |
|---|---|---|
| 会計ソフトの帳簿 | 売上と経費の全体 | 対象の年分を印刷するか、画面ですぐ出せるようにする |
| 請求書の控えと納品の記録 | 売上の金額と、どの年の売上か | 年末に納品した分は、納品日・請求日・金額の一覧にする |
| 通帳とカードの明細 | お金の出入りと、売上以外の入金 | 見られる期間が限られるので、対象の年分をダウンロードする |
| サイトやアプリの取引履歴 | 手数料を引く前の売上と、年末の残高 | CSVで出し、年ごとに集計する |
| 領収書(紙・画像) | 経費の支払いと中身 | 年ごとに分ける。紙も画像もないものは、カードの明細や通帳と突き合わせる |
| 家族への給与の記録 | 支払った額と日、仕事をした日と時間 | 振込の記録と作業の記録(入力履歴など)を、月ごとに並べる |
| 按分の根拠 | 家賃・車・通信費のうち事業の分 | 間取り図、カレンダー、走行距離から割合を計算し、計算の過程を残す |
| 契約書 | 取引の条件、家賃や駐車場の金額 | 業務委託契約書、賃貸借契約書、駐車場の契約書をそろえる |
帳簿は特に大事です。令和5年分以後の所得税では、調査で売上に関する帳簿の提示や提出を求められて出さなかった場合や、帳簿に記載した売上が本来の2分の1未満だった場合、帳簿に書くべき事項に関する申告漏れの税額について、過少申告加算税や無申告加算税の割合に10%が加算されます。2分の1以上3分の2未満なら5%の加算です(国税通則法65条4項・66条5項)。対象の帳簿は、複式簿記の青色申告なら仕訳帳と総勘定元帳、簡易な記録の青色申告や白色申告なら、取引ごとの売上がわかる売上帳などです。災害などやむを得ない事情で出せなかった場合は対象外です。出典:国税庁「帳簿の提出がない場合等の加算税の加重措置」
資料を揃えるときには、守ってほしいことが2つあります。
- 書類は、事実のとおりのものを出す。手元にない記録は、カード会社や取引先からの再発行や、バックアップからの復元で取り戻します。今作る一覧には、作成日と、もとにした記録を書いておきます。事実と違う書類や、当時作ったように見せかけた書類は、仮装と判断されると重加算税の対象になります(国税通則法68条)
- 資料で説明できないことは、そのまま伝える。偽りの答えには罰則があります(同法128条)
予行演習で答えに詰まった質問が、準備の優先順位です。
予行演習の最後に出る確認表には、「書類や記録で説明できないと、どう扱われそうか」の列があります。この列の影響が大きいものから、資料を集めてください。集める途中で申告の誤りに気づいたら、修正申告は早いほうが加算税が軽く済みます(過少申告加算税の表)。税理士への依頼は、調査の途中からでもできます。
FAQ
よくある質問
出典・参考(2026年10月10日確認)
- 国税庁「調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)」(第2章1「調査と行政指導の区分の明示」)
- 国税庁「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」(問2:調査と行政指導、行政指導に応じた修正申告と加算税。問16・問17:日程の変更)
- 国税庁「令和6事務年度における所得税及び消費税調査等の状況」(実地調査と簡易な接触の件数・追徴税額、簡易な接触の説明)
- 国税庁「帳簿の提出がない場合等の加算税の加重措置」(対象の帳簿、適用の時期、加重の割合)
- 国税通則法19条・24条・65条・66条・68条・70条・74条の2・74条の7・74条の9・74条の10・74条の11・74条の13・75条・77条・128条
- 所得税法2条1項33号・36条・45条・56条・57条・83条・144条・148条・150条・232条、所得税法施行令85条・96条・165条、所得税基本通達36-8、租税特別措置法25条の2・28条の2、電子帳簿保存法4条3項・7条、税理士法30条
本記事は一般的な情報提供を目的としています。調査の件数は国税庁の公表資料(令和6事務年度)によります。予行演習の実行例は架空の事例で、調査官役の発言は生成AIの出力をそのまま載せています。
執筆:好川 寛(税理士・元国税調査官/東京国税局15年・調査・審理・国税不服審判所、IT企業でのプロダクトマネジメント経験)

