「海外に住んでいるけれど、日本の会社から報酬をもらっている。日本の税金はどうなるんだろう?」

グローバルな働き方が広がる今、このような疑問をお持ちの方が増えています。慣れない海外での生活に加え、税金のことまで考えると、不安に感じてしまうかもしれません。

この記事では、そんなあなたの疑問を解消し、安心して国際的なキャリアを築くための一歩として、日本における税務の基本的な考え方、納税管理人の必要性、そして専門家へ相談することの重要性をお伝えします。

なぜ税務の確認が必要なの?

海外にお住まいでも、日本の企業から得た報酬については、日本の所得税が課税される可能性があります。しかし、その判断は単純ではありません。ご自身の状況や日本と居住国の間の取り決めによって、納税義務の有無や範囲、手続きが大きく変わってくるからです。

もし、知らずに納税義務を果たしていなかった場合、後から本来納めるべき税金に加えて、延滞税や加算税といったペナルティが課されることもあります。逆に、正しく手続きをすれば、二重課税を避けられたり、納め過ぎた税金が戻ってくるケースもあります。

だからこそ、まずはご自身の状況を正しく理解することが大切なのです。

あなたの税務をチェック!3つのステップ

日本の非居住者に関する税務は複雑ですが、基本的な考え方のプロセスは以下の3つのステップで整理できます。

ステップ1:あなたは日本の「居住者」?それとも「非居住者」?

まず最初に確認すべきは、あなたが日本の税法上で「居住者」にあたるのか、「非居住者」にあたるのか、という点です。これは、日本が課税できる所得の範囲を決定する上で最も基本的な区分となります。

居住者とは?:日本国内に「住所」を持つか、または1年以上継続して「居所」(生活の本拠ではないが、ある程度の期間継続して居住する場所)を持つ個人を指します 。居住者の場合、原則として日本国内で得た所得も海外で得た所得も、すべて(全世界所得)が日本の課税対象となります 。
非居住者とは?:上記の居住者に該当しない個人です 。非居住者の場合、日本で課税されるのは、原則として「日本国内で生じた所得(国内源泉所得)」に限られます 。   

この判断は個別の状況によって異なり、専門的な知識が必要となる場合があります。

ステップ2:「非居住者」なら、日本の税金はどうなる? – 「国内源泉所得」を理解しよう

ステップ1で「非居住者」に該当すると判断された場合、次に考えるのは、あなたが日本企業から得ている報酬が「国内源泉所得」にあたるかどうかです。

「国内源泉所得」とは、文字通り日本国内で発生した所得のことです 。日本の企業から支払われる報酬であっても、その仕事がどこで行われたか(役務提供地)や、あなたの立場(従業員か役員か)などによって、国内源泉所得に該当するかどうかが変わってきます。  

ただし、あなたが日本の内国法人の「役員」として報酬を得ている場合は注意が必要です。役員としての報酬は、たとえ海外で勤務していたとしても、原則として「国内源泉所得」として扱われ、日本の所得税の課税対象となります。これは、役員の職務が特定の場所に限定されず、法人の経営全体に関わるという考え方に基づいています。 (例外:役員が海外支店の支店長を兼務するなど、使用人として海外で常時勤務していると認められる場合の給与部分は、国外源泉所得となることもあります。)

日本の所得税法では、どのような所得が国内源泉所得に該当するかが細かく定められており(所得税法第161条)、実務上の指針として所得税基本通達164-1(特にその中の「表5」)などがあります 。これらは、国内法における課税関係の基本的な考え方を示しています。   

ステップ3:日本とあなたの居住国との「租税条約」が鍵!

ステップ2で、あなたの報酬が日本の国内法上、課税対象となる「国内源泉所得」に該当する可能性が出てきたとしても(特に役員報酬の場合など)、それで終わりではありません。次に重要なのが、日本とあなたの今お住まいの国との間で結ばれている「租税条約」です。

租税条約は、主に以下の目的で二国間で締結される国際的な約束事です。

国際的な二重課税の排除・軽減:同じ所得に対して、日本とあなたの居住国の両方から税金が課されることを防ぎます 。
脱税や租税回避の防止 

もし、あなたの居住国でもその役員報酬が課税対象となる場合(二重課税が生じる場合)、その調整は通常、あなたの居住地国において外国税額控除を適用するなどの方法で行われます。個別の租税条約によっては、日本での課税が軽減されたり、免除されたりするケースも存在し得るため、具体的な取り扱いは必ず確認が必要です。

その他の所得の場合: 役員報酬以外の所得(例えば、日本国内の不動産からの賃料収入や、日本国内で行った事業から得た所得など)についても、租税条約によって日本での課税関係(課税の有無、税率の上限など)が影響を受けることがあります。

租税条約の特典(例:税金の免除や軽減)を受けるためには、原則として、事前に「租税条約に関する届出書」などの書類を税務当局に提出する必要があります 。この手続きを怠ると、本来受けられるはずの特典が適用されないこともあります。 

日本での納税手続き、どうすれば? – 「納税管理人」の役割

海外にお住まいの非居住者の方が、日本で確定申告や納税、還付金の受領などの税務手続きを行う必要がある場合、ご自身でこれらの手続きを行うのは現実的に難しいことが多いでしょう。

そのような場合に、通常、あなたに代わって日本国内での税務手続きを行う代理人として「納税管理人」を選任することになります。

納税管理人が必要となる主なケース:

  • 日本国内で所得が発生している場合
    • 日本国内にある不動産を貸して家賃収入がある。
    • 日本国内の不動産を売却して利益が出た。
    • 日本の会社の株式を売却して利益が出た(一定の条件あり)。
    • 日本の会社から利子や配当を受け取った(源泉徴収で完結しない場合など)。
  • 日本で納税義務があるその他の場合
    • 相続税や贈与税の納税義務が生じた。
    • 日本国内に所有する不動産の固定資産税の納税義務がある。
    • 出国時に未納の住民税がある。
    • 出国税(国外転出時課税)の納税義務がある、または納税猶予の適用を受ける。

納税管理人を選任する際には、所轄の税務署に「所得税・消費税の納税管理人の届出書」を提出する必要があります。この届出書は、原則として日本を出国する日までに提出します。

「もしかして私も?」と思ったら、専門家にご相談ください

ここまで、非居住者の税務に関する基本的な考え方の3ステップと、納税管理人の必要性についてご説明しました。しかし、これらはあくまで一般的な枠組みです。

  • 「自分は本当に非居住者なのだろうか?」
  • 「この報酬は、国内源泉所得にあたるのだろうか?それとも国外源泉所得?」
  • 「役員としての報酬だけど、例外規定は適用される?」
  • 「どの租税条約が適用されて、具体的にどうなるのだろう?」
  • 「納税管理人は必要なのだろうか?誰に頼めばいい?」
  • 「必要な手続きは何をすればいいの?」

これらの疑問に正確に答えるためには、個別の状況を詳細に検討し、複雑な税法や租税条約の規定を正しく理解する必要があります。ご自身で判断するには難しい点が多く、もし誤った判断をしてしまうと、後から思わぬ税金の負担が発生するリスクも否定できません。

税理士にご相談いただくことで、以下のようなメリットがあります。

  • 正確な納税義務の判定:あなたの状況を丁寧にヒアリングし、税法や租税条約に基づいて、日本での納税義務の有無や範囲を正確に判定します。
  • 二重課税の回避・軽減:租税条約の適用などにより、国際的な二重課税を適切に回避または軽減するためのアドバイスを行います。
  • 節税の可能性の検討:適用可能な控除や特例がないかなど、合法的な範囲での節税の可能性を検討します。
  • 納税管理人サービスの提供:納税管理人が必要な場合に、その選任手続きをサポートします。これにより、海外にいながら日本の税務手続きをスムーズに進めることができます。
  • 複雑な手続きの代行・サポート:「租税条約に関する届出書」の作成・提出、確定申告書の作成・提出など、煩雑な税務手続きを代行またはサポートします。
  • 税務調査への対応:万が一、税務調査があった場合にも、専門家として適切に対応します。
  • 精神的な安心感:税金の心配事を専門家に任せることで、安心して海外での生活やお仕事に集中できます。

私たちにご相談ください – 国際税務に強い専門家があなたをサポートします

当事務所では、経験豊富な税理士をあなたの納税管理人として選任し、日本国内の税務申告、税務署からの書類受領、税金の納付・還付手続きなどを代行する「納税管理人サービス」を提供しております。
海外在住の皆様の税務に関するお悩みや疑問に、親身に対応させていただいております。特に、非居住者の方の日本の税務、国際的な二重課税の問題、そして納税管理人の業務については、豊富な実績がございます。
「自分の場合はどうなるんだろう?」 「何から手をつければいいかわからない」 「納税管理人を頼みたい」そんな時は、どうぞお気軽に当事務所にご相談ください。

おわりに:正しい知識で、安心な海外ライフを

海外で活躍される皆様にとって、税金の問題は避けて通れないものです。しかし、正しい知識を持ち、適切な対応をすることで、余計な心配をすることなく、海外での生活やお仕事に専念することができます。この記事が、あなたの税務に関する疑問を解消する一助となれば幸いです。そして、もし少しでもご不安な点があれば、どうぞお気軽にご相談ください。