海外在住で日本企業から給与・報酬を得る場合の税金:居住者/非居住者の判定から丁寧に解説(租税条約・納税管理人まで)

「海外在住だけど、日本企業から給与(または報酬)を受け取っている。日本の所得税はどうなる?」
実際にこのページは「海外在住 日本から給与」「海外在住 日本企業で働く 税金」「所得税 海外在住」「非居住者 日本での収入」といった検索で読まれており、同じ悩みを持つ方が確実に増えています。
結論から言うと、税金の判断は“報酬の種類”より前に、まずあなたが税法上「居住者」なのか「非居住者」なのかで大きく変わります。ここが曖昧なまま次の検討(国内源泉か、租税条約で軽減できるか、源泉徴収は必要か等)に進むと、前提が崩れてしまい、後からの修正コストが大きくなりがちです。
この記事では、海外在住で日本企業から給与・報酬を得ている方に向けて、迷いにくい順番で「3ステップ」に整理して解説します。特に問い合わせが多い居住者/非居住者の判定(ステップ1)は、丁寧に厚めに説明します。
先に結論:税務判断はこの3ステップで整理すると迷いにくい
海外在住で日本企業から給与・報酬を得ている場合、日本の所得税は概ね次の順番で整理すると分かりやすいです。
- ステップ1:あなたは「居住者」か「非居住者」か(ここが最重要)
- ステップ2:(非居住者なら)その給与・報酬は「国内源泉所得」か
- ステップ3:租税条約で最終調整できるか(軽減・免除。ただし“届出”が必要なことが多い)
この順番は実務でもそのまま使えます。まずステップ1が確定しないと、ステップ2以降は結論が定まりません。
30秒セルフチェック(居住者判定で迷いやすい典型)
次のような事情がある場合、居住者/非居住者の判定が揺れやすくなります。もし当てはまるなら、結論を急がず、事実関係を整理してから判断するのがおすすめです。
- 日本に住居(持家・賃貸)を残している/いつでも戻れる状態で維持している
- 配偶者や子など、生活費を共にする家族が日本に住んでいる
- 海外に1年以上いるが、日本への短期帰国が多い/日本側の仕事の比重が大きい
- 日本に主要な資産や事業基盤(不動産、法人経営、投資など)がある
- 二拠点生活・ノマド等、複数国を行き来している
よくある誤解として「住民票を抜けば非居住者」「海外に1年以上いれば非居住者確定」という理解がありますが、実務の結論はそれほど単純ではありません。ポイントは、あなたの生活の本拠(生活の中心)がどこにあるか、です。
ステップ1:あなたは日本の「居住者」?それとも「非居住者」?
ここが最重要です。実務上の問い合わせも、この判定が圧倒的に多いです。
1-1.居住者/非居住者の基本:住所(生活の本拠)と居所で決まる
税法上、個人は「居住者」と「非居住者」に分かれます。居住者とは、日本国内に住所(生活の本拠)がある人、または日本国内に1年以上引き続き居所がある人です。反対に、居住者に当てはまらない人が非居住者です。
この区分が重要な理由は、課税範囲が根本から変わるからです。居住者であれば原則として「全世界所得」が日本の課税対象になり得ます。一方、非居住者であれば原則として「国内源泉所得」に限って日本で課税されます。
1-2.住所(生活の本拠)は「総合判断」。日数だけでは決まりません
居住者判定で最も重要なのは、「住所=生活の本拠」をどう判断するかです。ここは滞在日数だけで決まるものではなく、客観的な事情を総合して判断する、というのが基本です。
実務では、たとえば次のような事情を積み上げて「生活の中心がどこにあるか」を見ていきます。住居(生活基盤となる住まいがどこか)、職業(仕事の中心がどこか)、資産(主要資産や事業基盤がどこか)、親族の居住状況(家族の生活の中心がどこか)などです。
たとえば、海外で賃貸契約を結び、現地での生活が安定し、仕事も海外中心で、日本側の住居を整理している場合は、生活の本拠が海外に移っている説明がしやすくなります。一方で、海外に長くいても、日本に住居が残り、家族も日本に居て、仕事や資産も日本側が強い場合は、生活の本拠が日本と評価され得る余地が残り、慎重な整理が必要になります。
「海外在住」という事実そのものよりも、「生活の中心を説明できる事実がどちら側に積み上がっているか」。これが居住者判定の実務感覚です。
1-3.住所の推定(補助規定):推定は“反証可能”。結局は実態が鍵
国の内外をまたぐ居住地の判断には、一定の場合に「住所の推定」という補助的な整理が用いられることがあります。たとえば、国外で継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有する場合など、一定の事情があると、国内に住所がない方向で推定される、といった整理です(要件は国税庁の別紙に整理されています)。
ただし、推定はあくまで推定で、反証が可能です。最終的には「生活の本拠がどこにあるか」という総合判断に耐える事実関係が必要になります。推定に当てはまるから自動的に結論が確定する、という理解は避けた方が安全です。
1-4.二重居住(双方で居住者)になったら、租税条約で“最終調整”する
国によって居住者判定の基準が異なるため、「日本でも居住者、居住国でも居住者」という二重居住状態が起こり得ます。この場合、通常は租税条約のタイブレーク(優先順位)で、どちらの国の居住者として扱うかを決めていきます。
一般的には、恒久的住居の所在、利害関係の中心、常用住居、国籍、といった順番で整理され、必要に応じて当局間協議となる場合があります。該当しそうな方は「条約まで含めた整理」が必要になります。
1-5.判定が割れやすい代表例(考え方の例)
ここからは、判断が割れやすい代表例を3つ紹介します。結論を断定する趣旨ではなく、「なぜ迷うのか」「何を整理すべきか」をつかむための説明です。
(1)単身で海外、家族は日本に残るケース
家族の居住地は生活の中心を考えるうえで強い事情になりやすい一方、それだけで自動的に結論が決まるわけでもありません。住居の状況、生活費負担、帰国頻度、仕事の実態などと合わせて総合判断になります。
(2)海外に生活基盤を移し、日本側の住居も整理しているケース
海外側の住居契約・生活実態・仕事の中心が海外にあり、日本側の住居が「いつでも戻れる状態」ではない、といった事情が積み上がると、生活の本拠が海外にある説明がしやすくなります。
(3)海外在住だが、日本法人の経営や資産が厚い(二拠点含む)ケース
日本法人の役員としての関与、事業運営の実態、資産の所在などが日本側に厚い場合、生活・経済関係の中心がどこにあるかの説明が難しくなり、慎重な整理が必要です。
1-6.居住者判定の相談が早く進む「確認したい情報」
居住者判定は、法律論だけでなく“事実関係の確認”が重要です。初回相談を短時間で整理するため、可能であれば次の情報があるとスムーズです。
- 出国日・帰国予定(または予定なし)と、直近の入出国の流れ
- 海外側住居の状況(賃貸契約、居住開始時期など)
- 日本側住居の状況(持家・賃貸、家財、自由に使える状態か)
- 家族の居住地と生活費の負担
- 仕事の実態(雇用か委託か、勤務場所、指揮命令、役職)
- 日本側資産・事業基盤(不動産、法人、投資等)
判定が揺れそうな方へ(ステップ1だけの相談でもOK)
「海外在住 日本から給与」「海外在住 日本で収入 税金」といった悩みは、実はステップ2・3の前に、ステップ1の結論で大きく分岐します。居住者/非居住者の前提が崩れると、あとから修正する手続と説明コストが大きくなりやすいのが実情です。
当事務所では、まずステップ1(居住者/非居住者の判定)について、お伺いした情報に基づき、判断の枠組み・確認すべき事実関係・必要になりやすい資料を丁寧に整理します。その上で、必要に応じて国内源泉・租税条約・納税管理人へ進む流れをご案内しています。
「まずは居住者/非居住者のどちらの可能性が高いか、論点と確認事項を整理したい」という段階のご相談も承っています。
ステップ2:(非居住者の場合)その給与・報酬は「国内源泉所得」?
ステップ1で非居住者と整理できた場合、日本で課税されるのは原則として国内源泉所得に限られます。ここで重要なのは、「日本企業が支払っている」ことよりも、報酬が何の対価で、どこで役務提供したか(国内か国外か)という点です。
たとえば海外在住で日本企業のために働いていても、労務提供が国外で完結しているなら、国内源泉に当たらない方向で整理されることが多い一方、国内での勤務(出張・短期帰国中の稼働など)が混ざると、国内源泉に該当する部分が生じ得ます。実務上は「どこで働いたか」を客観的に説明できる形にしておくことが重要です。
また、「海外在住 業務委託 税金」のように業務委託(フリーランス報酬)であっても、役務提供地に加えて、所得の性質、恒久的施設(PE)の有無、条約適用の有無などで整理が分岐します。支払者側(日本企業側)では源泉徴収の要否が実務リスクになりやすく、受け取り側(海外在住者)では、源泉で完結するのか/申告が必要か、条約で軽減できるかが論点になりやすい構造です。
ステップ3:租税条約で軽減・免除できる?(できても“届出”が重要)
ステップ2で日本課税となる整理になったとしても、居住国との租税条約により、税率が軽減されたり免除されたりする場合があります。ここで大切なのは、租税条約の軽減・免除は“自動で適用されるとは限らない”点です。
実務では、条約の適用を受けるために「租税条約に関する届出書」等を期限までに提出する必要があるケースが多く、提出が間に合わないと国内法の税率で源泉徴収が行われ、後日、還付請求で調整する流れになることがあります。条約適用は「制度を知っているか」「手続を期限内にできるか」で結果が変わりやすい領域です。
日本での手続:納税管理人は必要?
非居住者の方が、日本で確定申告や還付請求などの手続を行う必要がある場合、海外から自力で期限管理・書類受領・追加資料対応まで行うのは現実的に難しいことがあります。そのため、通常は日本国内で税務手続を行う代理人として「納税管理人」を定めます。
納税管理人を定めると、税務署からの書類が納税管理人宛に届くようになり、期限管理や追加対応が安定します。海外在住のまま日本の税務手続が続く場合、納税管理人を税理士にすることで、実務負担が軽くなるケースが多いのが実情です。
よくある質問(FAQ)
Q. 海外に1年以上住んでいれば必ず非居住者ですか?
A. 目安にはなりますが、最終的には「住所(生活の本拠)」がどこにあるかを、住居・職業・資産・家族の居住状況などの客観事実で総合判断します。日数だけで決まらない点が重要です。
Q. 住民票を抜けば非居住者ですか?
A. 住民票の手続は重要ですが、税法上の判定は実態(生活の本拠)で判断されます。住民票だけで自動的に結論が確定するとは限りません。
Q. 海外在住で日本から給与を受け取っています。日本の所得税は必ずかかりますか?
A. まず居住者か非居住者かで課税範囲が変わります。非居住者の場合は、給与が国内源泉に当たるか(どこで労務提供したか等)で整理します。出張・短期帰国中の稼働が混ざる場合は個別検討が必要です。
Q. 非居住者で日本企業から業務委託報酬を受け取る場合は?
A. 役務提供地、所得の性質、PEの有無、条約適用の有無などで分岐します。支払者側の源泉徴収判断も絡むため、事前に整理しておくと安全です。
Q. 租税条約で免除できるなら、後から手続しても大丈夫ですか?
A. 条約適用は期限までの届出が必要なことが多く、間に合わない場合は源泉徴収後に還付請求で調整する流れになることがあります。手続コストが増えるため、可能な限り事前の確認がおすすめです。
当事務所のサポート(ステップ1だけでもOK)
海外在住×日本企業から給与・報酬というテーマは、「居住者判定」「国内源泉」「条約」「源泉徴収」「納税管理人」などが絡み合い、少し事情が変わるだけで結論が動きます。特に、最初の居住者判定が揺れている段階で自己判断して進めると、後からの修正が難しくなることがあります。
当事務所では、まずステップ1(居住者/非居住者の判定)について、お伺いした情報に基づく一般的な考え方のご案内として、論点と確認事項を整理します。その上で、必要に応じてステップ2(国内源泉)・ステップ3(租税条約)へ進む進め方をご提案します。
「二拠点で整理が難しい」「支払者側の源泉徴収の要否も含めて論点を整理したい」といったご相談も歓迎しています。お気軽にお問い合わせください。
参考リンク(国税庁等)









